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「東芝の不適切会計が示唆するもの」

東芝の会計不祥事が大きな話題となっています。「え、あの東芝が?」がというのが偽らざる第一感です。

なぜ、東芝が
当初は原子力などの大型のインフラ事業に係る工事進行基準だけの問題だと考えられていたのですが、調査が進むにつれ問題は一部門だけには止まらず、全社に拡がる勢いを示しています。東芝は、経団連の会長も輩出するような歴史ある名門企業で、業績も決して悪くなさそうなのに、なぜ不適切会計に手を染めなければならなかったのか(まだ新聞などでは「粉飾」とは言い切らず、「不適切会計」という表現をしていますが、実質は粉飾といわれても仕方がない状況です)。調査中であり、全容はまだわかりませんが、創業して間もない新興企業ならまだしも、日本を代表する企業の東芝だけに、管理体制、ガバナンス、内部統制、会計監査などについて、日本企業全体に波及する問題としてとらえなければならないのかもしれません。

粉飾の2類型
粉飾決算は大きく2つに分けることができます。一つは金額の架空計上、つまり、完全なでっち上げです。たとえば、ありもしない売上を仮装するものです。
(借方)売掛金***   (貸方)売上***
という仕訳になります。こうした場合は、この売上は架空のものですから、売掛金がいつまでたっても、現金化しないことによって、粉飾が露呈します。これは弁解の余地のない粉飾です。
もう一つは見積もりの操作です。東芝の不適切会計の発端は、工事進行基準の収益計上に関わるものだと報じられています。工事進行基準とは工事の進行度合いに応じて、収益・費用を計上する会計基準です。建設業などで、大型の工事を行っている会社は、工事の完成を待って売上を計上していては、年度によって損益のバラツキが大きくなってしまいます。そこで、期末に工事の進捗度を見積もり、その進捗度合いに応じて、収益・費用及び利益を計上します。東芝において、工事進行基準でどのような不適切な会計が行われていたのかは詳らかではありませんが、進捗率を操作して、収益を早めに計上していたのかもしれません。

確実性と相反する見積もり
これも利益の改竄ですから粉飾には違いがありませんが、ただ完全なでっち上げとは違い、当事者の罪の意識は薄くなります。工事の全体金額そのものに変わりがなければ、収益計上時期を繰り上げても、その分、後で収益が少なくなるだけですから、全体としての帳尻は合うはずです。架空の数字を作り上げたのとは違い、見積もりの操作ですから、判断する人による主観の相違です、と言われればそれまでです。
こうした見積もりの操作は何も工事進行基準だけではありません。減価償却費も引当金にも同様にその危険性は存在します。機械の減価償却期間を5年にするか10年にするかで、減価償却費は大きく異なります。償却期間は5年が正しいのか、10年が正しいのかは機械を使い終わってみなければ分かりませんから、現段階では確定的ではありません。会計にはこうした不確実性がぬぐいがたく存在します。
こうした不確実性を排除することは不可能ではありません。工事進行基準ではなく工事完成基準を、固定資産の費用化も減価償却ではなく現金主義を採用すればいいわけです。ただ、そうなると確実性は増しますが、会計の大きな目的である適正な期間損益の算定が達せられなくなってしまいます。それは会計の先祖返りですから、あり得ません。

必要となる倫理観
会計は見積もりの拡大と共に進化してきました。近年導入された減損会計や税効果会計でも将来利益の見積もりが重要になります。また、資産価格の算定も取得原価から将来キャッシュフローの現在価値へと変わる傾向にありますが、将来キャッシュフローの現在価値を計算するには、将来キャッシュフローの予測や現在価値に引き直す割引率を決めなければなりません。そこでも見積もりが必要になります。
IFRS(国際会計基準)導入企業も増加傾向にあり、会計が見積もりの拡大に向かうことは不可避です。その結果、人為的な操作の余地も広がってきます。
東芝の事件は、決算書の数値はこうした脆弱性の上に成り立っていることを再認識させてくれました。決算書を作成する経営者と共に我々会計人も、進化する会計には倫理観が益々重要になることを自戒しなければなりません。

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