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「成功体験を否定できるか」

 みずほフィナンシャルグループが2019年3月期の決算で、6800億円の減損処理を行うことを発表しました。その内訳はシステム投資や店舗に関わるものが主力なようですが、ここで注目したいのは店舗の減損です。というのは、店舗は銀行の強さの象徴だったからです。

銀行の強みは顧客との親密さ
 銀行の強みは顧客との密着度の高さだと言われてきました。それを支えたのは、至る所に張り巡らされた店舗網と、そこに配置された人員です。近くに店舗があることで、地域の人が気軽に来店したり、担当者が顧客の店や自宅を頻繁に訪問することで、顧客との密着度を高めます。銀行によって商品力は違い、金利の高い銀行や低い銀行がありますが、たとえ多少商品力が劣っていても、顧客との親密度の高さで商品の劣後性をカバーし、取引の維持・拡大を図るというのがこれまでの銀行の基本戦略だったと思います。

ネットの普及で強みが弱みに
 しかし、今になってみると、商品の劣後性を顧客との親密度でカバーできたのは、情報の遮断性が大きな要因として作用していたことが分かります。ネットの普及前は、他銀行の金利等の商品情報を広く収集することは、普通の人にはかなり困難なことでしたし、また、たとえ情報を収集できたとしても、対面営業が原則でしたから、取引することはもっと大変でした。
 しかし、ネットの普及は軽々とその壁を乗り越えます。商品情報の収集・比較は極めて容易ですし、パソコンやスマホでの電子取引も簡単にできるようになりました。しかも、銀行が取り扱うカネという商品には困った特色があります。他の形のある商品なら、デザイン性とか機能性に特色をつけることで、値段の差を跳ね返すことが可能ですが、カネは金利以外の差異を見つけにくいのです。金利だけを比較すればいいので、ネットが普及すると、簡単に優劣がついてしまいます。こうなると、かつては強みであった稠密な店舗網は一気に重荷に転化してしまいます。

新聞の宅配が重荷に
 同様なことは新聞の宅配にもいえます。かつて情報へのアクセスが容易ではなかった時代には、宅配網を全国に持っていることが新聞の強みでした。しかし、電子データにより、記事をパソコンやスマホに送ることができるようになれば、紙に印刷し、人力で配る宅配はコストがかさみ、新聞経営の重荷になります。
 新聞各社はかなり追い込まれています。その表れが新聞に対する消費税の軽減税率の適用です。軽減税率はすべての新聞に適用されるわけではなく、週2回以上宅配される新聞に限られています。デジタル配信は言うに及ばず、駅売りの紙の新聞まで除外した、誰も納得できない、こんな不合理を押し通してまで宅配を維持しようしているのです。

強みは永遠ではない
 強みは永遠に強みではあり続けるわけではありません。環境の変化はかつての強みを一気に弱みにしてしまいます。それはいつの時代にもあることですが、ネットの普及はその変化を加速させているように思います。
 銀行の店舗も新聞の宅配も、かつては強みであっただけに、そこにはかなりの経営資源を割いています。こうした経営資源が環境の変化により弱みに転化した時、スリム化することは容易ではありません。だから、経営者は何とか経営資源を現状のまま、維持できないかと頭を絞ります。その典型例が前述の新聞の軽減税率の適用ですが、そうしたことをしても重荷から脱却できないとなると、みずほフィナンシャルグループのように減損処理に追い込まれることになります。
 強みが弱みに転化することは銀行や新聞業界だけではなく、どこの業界でも起こり得ることです。かつての強みが強みであるうち、新しい強みを開拓しなければなりませんが、銀行や新聞に次代を担う新しい強みが見いだせないところが問題です。
 経営者は、強みがいつまでも同様に輝き続けないということを再認識し、状況の変化に柔軟に対応できるようにしなければなりません。人間だれしも昔の成功体験を否定することは容易ではありませんが、それこそが変化の激しい時代に経営者に求められる資質だと思います。

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