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「金利が表す銀行の苦悩」

 2020年7月29日付け日本経済新聞に全国の地方銀行、第二地方銀行の多くが、先行していた大手行に続き、定期預金の金利を従来の5分の1にあたる0.002%に引き下げたとの記事が掲載されました。
 5分の1と聞くと随分思い切った引き下げだと思うかもしれませんが、引き下げ幅を見ると、従来の0.01%から0.002%への引き下げですから、わずか0.008%の引き下げに過ぎません。100万円を1年間預けたときの利息は、従来100円であったものが20円になるということになります。100万円についてたった80円の差額です。4~5%の金利が普通だった時代から考えれば、ほとんど誤差の範囲内です。こういう時代になると、果たして金利とは何なのか考えてしまいます。

金利は需給で決まる
 「金利とは何か」ということは経済学的には結構ややこしいのですが、一般的に分かりやすく言えば、金利とはマネーの価格です。商品の価格は当該商品の需要と供給のバランスで決まります。ですから、金利も他の商品と同様にマネーの需給で決まります。マネーの需要が供給より多ければ金利は上がりますし、少なければ下がります。銀行におけるマネー需要の代表は貸出であり、供給は預金になります。つまり、貸出需要が多ければ金利は上がり、預金供給が多ければ下がることになります。
 1970年代までの高度成長時代には設備投資等の正常な貸出需要、1980年代にはバブルによる貸出需要が旺盛で、金利は変動を繰り返しながらも、今に比べるとはるかに高い水準にありました。それが1990年代のバブル崩壊により、貸出需要は一気に冷え込みます。一方、預金供給は相変わらず増え続けたので、余剰預金が積み上がります。その結果、金利は下がるのですが、それでもマネーの需給状況に大きな変化はなく、金利は下げ続け、現在のゼロ金利に至ります。

預金は余っても困るが、足りなければもっと困る
 金利がゼロになれば、貸出需要が回復し、マネーの需給バランスも均衡するかと思いきや、ゼロ金利でも需要より供給が多い不均衡が続いています。銀行は貸出に回せない余剰資金は日銀に預金することになりますが、日銀はその一部にマイナス金利政策を適用していますから、マイナス金利の部分については、銀行は日銀に預金をすると金利を取られてしまいます。ここまでくればいっそ、銀行も日銀のように、預金利息をマイナスにしてしまえばどうか、とも思うのですが、そうすると今度は預金供給は一気に冷え込み、預金が不足することになるでしょう。そのため、金利はほとんどゼロに張り付いてしまっているのです(銀行が顧客への金利をマイナスにできないこうした状況を「金利の非負制約」と呼びます)。
 銀行にとって預金は、普通の事業会社における商材ですから、預金がなければ商売になりません。預金は集まりすぎても困りますが、少な過ぎればもっと困るのです。事業会社であれば、販売、仕入の調節は価格で行うことができるのですが、銀行はマネーの価格である金利が非負制約のため、ゼロ近辺で硬直し、その調節機能を失ってしまっているのが現状です。

銀行の正念場
 商売は安く仕入れて、高く売ることで、利益を確保します。価格の変動性が利益を裏から支えます。ところが、金融ではマネーの価格がゼロに張り付き、その変動性が極端に縮小しています。冒頭の預金金利引き下げのニュースにあるように、その変動幅はコンマ以下の非常に微細なものになってしまっています。銀行はこうした極小的な金利差で収益を上げなければならないのです。
 それでも多くの銀行が現在それなりの利益を確保できているのは、過去に発行されたハイクーポンの有価証券の存在と過去に計上した貸倒引当金の戻し入れ等によります。ハイクーポン債の償還と、コロナ禍による景気状況の悪化で貸倒引当金の増加は必至であり、過去のこうしたボーナスはなくなりつつあります。そうすると、銀行は近い将来、現在の針の穴を通すようなミクロな金利差で勝負しなければならなくなります。その時が銀行にとっての本当の正念場になります。

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