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コラム : 会計

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「株式評価方法の違いを利用したソフトバンクグループの財務戦略」

 ソフトバンクグループが苦境に陥っています。2022年4~6月期の連結決算の最終損益は3兆1627億円の赤字と、4~6月期の日本企業の赤字額としては過去最大という不名誉な記録を打ち立てました。その赤字対策として、虎の子の中国のIT企業アリババ集団株式の一部を売却することを決め、その結果、アリババ集団はソフトバンクグループの関連会社(持分法適用会社)から外れ、2022年7~9月期に再評価益など4.6兆円を計上することとなりました(以上、2022年8月11日付け日本経済新聞による)。
 この記事のポイントはソフトバンクグループが所有していたアリババ集団株式の一部を売却することにより、アリババ集団はソフトバンクグループの関連会社ではなくなり、売らずに残った部分の株式の評価方法が変わり、評価益を計上するところにあります。

持分法と市場価格
 ある会社が上場している会社の株式を取得すると(子会社には該当しないものとします)、連結財務諸表を作成する際に、取得した株式の評価をしなければなりませんが、評価方法には主として2つの方法が考えられます。一つはその会社の事業実績を連結財務諸表に取り込む方法です(これを持分法といいます)。もう一つは、市場で付いている株価をそのまま所有している株式の評価方法とする方法です。会計では、関連会社は持分法により、それ以外の会社(以下では、一般会社と呼びます)は市場価格により評価することになっています。
 関連会社株式と一般株式を区別する本質的考え方の違いは、親会社がその会社の事業に関与し、一定の責任を保有するかどうかにあります。事業に関連性があり、両社の経営陣に関与の共通認識があれば、親会社はその会社の株式を安易に売却せず、ある程度長期に保有し、ロングスパンで関連会社を成長させようとします。逆に事業に関連性がなく、単に投資目的での保有だとすれば、親会社は外部者として所有する株式を自分の会社の状況やその株式の市場価格を見ながら自社に最も好都合な時期に売却していくことになります。
 グループ会社として事業に関与するとすれば、市場価格ではなく、関連会社の事業成績に応じた金額を連結財務諸表に取り込むことが合理的です。一方、グループ外の会社として事業に関与しないのであれば、一般株式として自社に最も有利なときに売却するのですから、時価である市場価格で評価するのが妥当となります。
 本質的な考え方は上記の通りですが、会計では関連会社であるかどうかは主として外形基準で判断します。厳密な定義はやや煩雑ですが、ベースの判断基準は親会社の株式所有比率によります。大雑把に言えば、親会社の株式所有比率が20%を超えれば関連会社となり(さらに所有比率が増大し、50%を超えると子会社となる)、15%~20%はグレーゾーンで、15%未満だと一般会社となります。

関連会社から一般会社に
 上記を踏まえ、冒頭のソフトバンクグループのアリババ集団株式の売却を振り返ってみます。売却前、ソフトバンクグループはアリババ集団の株式を23.7%所有していましたから、アリババ集団は関連会社でした。ですから、ソフトバンクグループの連結決算ではアリババ集団株式を持分法で評価し、アリババ集団の事業成績を取り込んでいました。ところが、今回の巨額の赤字発生を受け、ソフトバンクグループはアリババ集団の株式9.1%を売却し、株式の所有比率は14.6%に下がり、関連会社から外れ一般会社になりました。その結果、株式の評価方法は持分法から市場価格に変わりました。それまで、ソフトバンクグループが所有するアリババ集団の株式の簿価はアリババ集団の財務諸表の自己資本をベースに計算したものでしたから、それを市場で売却すれば、売却分9.1%について市場価格と簿価との差額が売却益として計上されることに加え、残存する14.6%分についても、株式の評価方法が持分法から市場価格に変わることにより、評価益が計上されることになったのです。
 その評価益のボリュームを測る指標としてPBR(株価純資産倍率)が利用できます。

PBRが高いアリババ集団株式
 PBRは株価を1株当たり自己資本で割ったものです。1株当たり自己資本は上記の持分法に近似すると考えることができますので、PBRが大きいほど、市場価格と持分法による価格との乖離幅が大きく、評価益のボリュームが大きくなります。9月10日時点でのニューヨーク証券取引所の株価で計算すると、アリババ集団株式のPBRは12.9倍となっています。帳簿上の自己資本に比べて、はるかに高い株価が形成されているので、ソフトバンクグループは今回の処理により大きな評価益を計上できたことが分かります。
 これまでソフトバンクグループはアリババ集団を関連会社として抱え、その株式を持分法で評価することで、巨額の含み益を保有し、決算の状況を見ながら株式売却を行い、売却益を計上することができました。いわば、アリババ集団株式は利益を捻出する都合のいい財布の役割を担っていたといえます。しかし、ここで財布の中身をさらし、評価益を一気に計上したことにより、これからはアリババ集団株式の市場価格がストレートにソフトバンクグループの連結決算を形成することになります。
 今後、ソフトバンクグループは、事業会社というより投資会社としての側面を一層強くして、その業績はこれまでにも増して株式市場の動向に翻弄されることになりそうです。

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「新自由主義的税制の見直し気運」

 このほど、経済協力開発機構(OECD)加盟国など136の国と地域が法人税の最低税率を15%にすることについて合意に達しました。2023年からの導入を目指します。この合意はこれまでの税制の潮流を変える大きな転換点になるものだと思います。

税制にも競争を
 ここ数十年、アメリカを中心とした世界の経済界を主として支配してきた思想は「新自由主義」といわれるものでした。新自由主義は、政府による市場への介入は最低限に抑え、できるだけ個人や企業の自由を尊重した経済活動を進めようとする考え方です。個人の自由度を最大限広げることが、経済パフォーマンスを向上させる最善の方策だと信じる思想です。
 この思想を貫徹すれば、税制も政府による介入の一種ですから、法人税や所得税の税率はできるだけ低い方が望ましいということになります。また、国など公的機関においても民間と同様な競争が求められます。それは、税率の引き下げ競争にとどまらず、個人や企業などが自由な経済活動を行いやすいように制度や設備を整備することも含まれます。
 こうした思想に基づいて、企業や個人が自由な経済活動を行った結果、経済全体が拡大し、拡大した経済の恩恵を受ける形で、最終的に経済的弱者も潤い(いわゆる「トリクルダウン」効果)、国民全体が豊かになると同時に、税率引き下げ分はパイの拡大でカバーし、税収も大きくは減少することはない、というのが新自由主義の狙いとする経済社会です。

効果がなかった
 しかし、実際に起こったことは、先進国では経済の停滞は続き、お金持ちはより豊かになったのですが、その恩恵が低所得層に及ぶことはなく、貧富の格差は拡大しました。また、国家レベルでは税率引き下げにより法人税収は落ち込む一方、低所得層対策のための福祉支出に加え、近年ではコロナ対策のための経費が追い打ちをかけて、財政赤字の拡大を招きました。そこで各国政府はたまらず、税率引き下げ競争に終止符を打つべく、今回の世界的な法人税の最低税率の合意となったわけです。

ふるさと納税も新自由主義的
 民間においては、個人の創意工夫を最大限に活かして、経済発展しようとする新自由主義的思想は、賛否はあるでしょうが、昔からあり、今後ともなくなることはないでしょう。しかし、それを公的な税制にまで適用することは、どんなに高邁な理想を述べたところで、終局的には、税率引き下げ競争に終始し、トータルとすれば税収の落ち込みを招くだけの結果になることが明確になったのだと思います。
 こうした競争的要素を取り入れた新自由主義的税制は国内にもあります。その代表はふるさと納税です。ふるさと納税のそもそもの発想は、税収を国から交付される地方交付税ばかりに頼るのではなく、地方自治体にも競争原理を導入し、特色のある政策を実行することで魅力ある自治体になり、そこに住んではいないが、そうした自治体を応援したいと考える人々から住民税を納めてもらい、そのお礼として返礼品を送る、というものであったはずです。ところが実態は、魅力ある地域づくりという理想はそっちのけで、返礼品の良し悪しを巡る競争に堕してしまっています。
 今では、商品券を配るといったような行き過ぎた返礼品競争は幾分是正されたようですが、それでも税率引き下げ競争の実態に変わりはありません。国民全体が納付する住民税額は同じなのですから、トータルで計算すれば、返礼品の分だけ、日本全体の地方自治体が受け取る住民税額は減少するのは自明です。これから福祉や医療制度の充実のために益々公的サービスの拡充が求められる中で、住民税が主として富裕層が得をする返礼品に消えてしまうのは合理的とは言えません。
 ふるさと納税は前首相肝いりの政策であっただけにこれまでやや聖域視された感がありますが、政権が変わると同時に、世界的に新自由主義的税制の見直しが叫ばれていることから、今後どのように変わっていくか(あるいは変わらないのか)が注目されます。

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「重要固定資産売却に際しての会計上の着眼点」

 コロナ禍で業績が悪化する企業が多くなっている中で、本社ビル等の大型の自社所有資産売却のニュースが目立っています。昨年12月にはエイベックスが青山にある本社ビルの売却を発表し、本年の1月には電通が新橋の本社ビルを売却する、との報道がなされました。業績悪化時における、重要な固定資産売却の際の着目ポイントについて考えてみたいと思います。
 エイベックスが昨年12月24日に発表した「固定資産の譲渡及び特別利益計上に関するお知らせ」のニュースリリースに沿って検証していきましょう。
 着目ポイントは売却代金の使途と売却益計上の効果及び今後の損益、キャッシュフローへの影響になります。

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「乖離が拡がる会計と税務」

 今、金融界で、「フォワードルッキング引当金」が注目されています(2020年8月12日付け日本経済新聞)。フォワードルッキング引当金とは、経済の将来予測に基づいて、債務者の返済能力を見積もり、予防的に貸倒引当金を計上する手法です。銀行には貸倒引当金の対象資産である貸出金が膨大にありますから、貸倒引当金の設定の仕方次第で損益が大きく左右されることになります。
  これまでの貸倒引当金の設定は、その客観性の高さから、債務者の決算状況などの過去の実績を中心に判断してきました。過去実績もある程度考慮するのでしょうが、それを、将来予測を軸に据えるというのは、かなり思い切った変革です。フォワードルッキング引当金は会計の基本思想を体現するものといえますが、会計がこの方向性を鮮明にすることで、会計と税務の乖離が拡がることに注意する必要があります。

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「収益力の低下が招く波及的な損失」

 新型コロナウイルスの蔓延により、戦後最大級といわれる経済停滞に陥っています。その結果、国内外の需要と供給が低迷し、必然的に企業業績の悪化を招来しています。事業そのものの業績不振による損益悪化はやむをえないのですが、現在の会計基準では本業の収益低下が連鎖的に会計上の損失を膨らませ、結果的に大きな最終損失を招くことに注意しなければなりません。その代表的な事例が減損会計と税効果会計です。

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「危機になるほど注目度が高くなる手元流動性」

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済活動の停滞は深刻です。ユニクロを運営するファーストリテイリングの柳井正社長は「戦後最大の人類の危機」とその深刻さを強調しました(2020年5月25日付日本経済新聞)。
 売上半減どころか、8割、9割減の企業も珍しくないような状況です。通常の売上のほとんどが失われれば、企業は資金繰りに窮し、存亡の淵に立たされます。そうした企業において、焦点があたるのは当面の支払い能力である流動性です。流動性の概念には幅がありますが、危機が深まるにつれ、焦点が当たる流動性の範囲は狭まります。

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「客観性のある過去か、主観的な未来か」

 金融庁が金融検査マニュアルを廃止することに対し地方銀行が困惑している、との報道がありました(2019年12月5日付け日本経済新聞)。というのは、これまで銀行の利益に大きな影響を与える貸倒引当金の設定は金融検査マニュアルに基づいて行われているのに、その基準となる金融検査マニュアルが廃止されてしまうと、引当金の設定の指針がなくなってしまい判断が難しくなるからだというのです。金融庁の狙いとしては、金融検査マニュアルを廃止し、画一的な貸倒引当金設定ルールを見直し、引当金の設定を銀行ごとに柔軟にできるようにしたいとのことです。

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「本当に黒字倒産なのか」

「黒字倒産」という言葉がありますが、常識的に考えると違和感がある言葉です。儲かっている会社は倒産しないはずですから、"黒字"と"倒産"は本来両立する言葉ではないように思うからです。"黒字"か"倒産"のどちらかが間違いなのかもしれません。

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「買った時に出現する利益とは」

 結果にコミットする」のコマーシャルで有名なライザップが、業績の下方修正に追い込まれ、事業の再編を進めています。
 ライザップは業績拡大のために企業買収を積極的に進めていましたが、決算において企業買収によって生じた「負ののれん」の会計処理が注目されました。そこで、負ののれんによって生じる利益とは何なのか、考えてみます。

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「子会社と関連会社の経営責任の違い」

 前回は一般会社と持分法が適用される関連会社の違いを説明しました。今回は子会社と関連会社の相違点を取り上げます。
 会計上は、子会社と関連会社を合わせて関係会社と呼びます。同じ関係会社ですが、子会社と関連会社の違いは、言葉では次のように表現されます。子会社は親会社に「支配されている会社」であり、関連会社は親会社の「影響力のある会社」です。子会社になるか関連会社になるかは他の要素も加味しますが、親会社の持株比率をベースにして、原則的には50%超が子会社、20%以上が関連会社になります。
関係会社になると、連結財務諸表では、親会社のグループ会社として関係会社の業績を取り込んで表示します。ただ、その表示の方法が子会社と関連会社で次のように異なります。

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