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コラム

「カネは使うためにあるのか、貯めるためにあるのか」

 日本の経済状況は為替動向に大きく左右されます。円安は輸出型大企業に有利であり、東証の主要銘柄はこうした大企業が主力ですから、円安は株価上昇につながります。円高は逆ルートをたどり、株価の下落を招きますから、国内には「円安歓迎、円高敬遠」の空気が蔓延します。
 確かに企業目線からは円高は好ましくないというのは分かりますが、消費者目線からは違った風景が見えるはずです。円が高いということは自国通貨が評価されるということで、決して悪いことばかりではないからです。にもかかわらず、我が国で円安が過度に選好されるのはカネの使い方に原因があるように思います。

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「社外取締役の役割」

 東証の指導もあり、上場企業で社外取締役が増加しています。これまで日本企業の取締役は社内の生え抜きがほとんどで、意思決定が内向きになり過ぎると、かねて批判されていました。そこで、社外取締役の数を増やし、取締役会に社外の多様な意見を反映させようというのです。
 既に導入済みだった一部の先進的大会社を除き、日本の大部分の会社の社外取締役は会社内部の必然性からではなく、外部からの強制によって生まれたものです。そのため、大多数の会社は社外取締役をどのように機能させるべきかについて迷っているのが実情だと思います。
 そこで、社外取締役の果たすべき役割を投資の意思決定とトップの選任について考えてみます。

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「二重ローンを避けるノンリコースローン」

熊本地震では多くの住宅が倒壊しました。地震などの大災害で住宅が毀損すると二重ローンの問題が浮上します。二重ローンとは住宅ローンで建てた家が地震で壊れてしまい、そのローンが残っているにもかかわらず新住宅建設のために新たにローンを借りなければならない状態を言います。地震にかかる二重ローンを回避するためには、借入者は地震保険を掛ければいいのですが、地震保険は保険料が高く、それほど普及していないのが現状だと思います。二重ローンはもっぱら借入者の自己責任か公的補助の問題で片付けられることが多いのですが、カネを貸す金融機関の側にも改善すべき点があるように私は思います。

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「シェアリングサービスでもベースは信頼感」

最近、一般人のすき間を活用するビジネスが注目を集めています。いずれもアメリカが発祥ですがUber、AirBnBなどが代表的なものです。
Uberは一口で言ってしまえば、タクシーのネット配車ですが、普通のタクシーに加え、一般人が自家用車を空き時間に利用できるようにしているところが特徴です。AirBnBは「民泊」と訳されるようですが、ホテルや旅館ではない一般の住宅を宿泊施設として利用するものです。こうした個人の所有物を共有するビジネスをシェアリングサービスと呼びます。日本ではまだまだ規制や法制度の問題がありそれほどでもありませんが、欧米などではかなり普及してきています。
シェアリングサービスはネットがなければ成り立たないビジネスであり、現代を象徴とする最先端の業界といえますが、こうした業界でもビジネスのベースには昔ながらの信頼感が必要なところが面白いところです。

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「マイナス金利は設備投資を活性化させるか」

日銀が実施しているマイナス金利が注目されています。その影響は金融市場と実体経済に及びます。金融市場に対しては金利をマイナスにすることで円の魅力を薄くして円安に誘導し、株価を上昇させるという意図があったようですが、これまでのところ日銀の思惑通りに市場は反応しているとはいえない状況です。どう動くにしろ、日銀の金融政策は金融市場に大きな影響を与えることは間違いありません。というのは、市場関係者はどんなことでも材料にして、相場を動かし、儲けることが習性だからです。
問題は実体経済にどう影響を与えるかです。日銀はマイナス金利にすれば貸出金利が低下し、設備投資が増加することによって、実体経済が活性化すると言っています。果たしてそうなるでしょうか。金利低下が設備投資に与える影響を損益計算書の表示を通して考えてみましょう。

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「マイナス金利をファイナンス理論に適用すると」

日銀が実施したマイナス金利が注目を集めていますが、マイナス金利は経済だけでなく、会計方面にも大きな影響を与えます。というのは、会計やファイナンス理論で重要となる将来キャッシュフローの現在価値の計算に際し使用する割引率は、国債等の運用利回りをベースにするからです。

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「内部留保があるから、投資を増やせるのか」

日本の企業は内部留保をためすぎ、資金を積極的に投資や賃金の増加に振り向けないから、日本経済は低成長にとどまるのだと批判されます。経済の好循環を持続させるためには、企業の積極的投資増や賃金増加が不可欠だとして、政府側から経済団体に異例の働きかけが行われています。しかし、内部留保が多いから、投資を増やせるだろうという議論の展開には違和感を覚えます。

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「ガバナンスを支えるのは倫理観」

昨年は東芝の不適切会計、VWの排ガス規制問題など企業不祥事が相次いだ年でした。事件を起こした東芝やVWは、その国の名門企業と言われていた会社だけに大きな衝撃を与えました。
それと同時に我が国では、上場企業のガバナンス(統治)体制の改革も大きなテーマでした。取締役の大多数が社内出身者であることが、不祥事発生の一因になっているのではないかというのです。一般株主、あるいは社会からの視点を会社の意思決定に入れるべきだということで、社外取締役の存在がクローズアップされました。

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「先送りではない、早めの決断」

新年を迎えましたが、GDP(国内総生産)は低迷し、アベノミクスも一種の曲がり角を迎えているように思います。本来、民間企業が独自に決めるべき設備投資や賃上げについて、政府が企業に要請するという官民対話に政府の焦りが感じられます。
というのは、こうした要請は市場と政府のどちらが賢いかという、古くからある既に決着済みの問題を蒸し返しているに過ぎないからです。どんなに優秀な政治家や官僚でも、市場で行われる資源配分以上に賢い選択はできないというのが資本主義社会での結論です。政府が直接に介入し、市場とは異なる資源配分をしても、良い結果はえられないだろうというのがコンセンサスだったはずです。そんなことは、関係者は百も承知でしょう。それでも、民間企業にこうした要請をせざるを得ないところに、行き詰まり感が表現されているように思います。
「デフレを止めるために金融緩和を行い、さらなる財政支出を行うべきなのか、あるいは今でも膨大な財政赤字を抱えているのだから将来のインフレを予防するために国債残高の圧縮に努めるべきなのか。」こうした問題についても、経済学は有効な処方箋を示すことができていません。
そうした中で、企業経営はどうあるべきなのか、考えてみましょう。

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「利益に対応した経営責任」

IFRS(国際会計基準)や米国会計基準の影響を受け、平成23年から日本でも上場企業に対して「包括利益」が導入されました。導入前にはその影響について盛んに議論されていましたが、導入後は新聞や経済誌でも、ほとんど話題に上ることはなく、従来通りの損益計算書ベースの利益分析に変わりはなく、包括利益はやや置き去りにされた感があります。
ただ、包括利益は経営者の経営責任概念について、従来の利益とは大きく異なっていることに注意しなければなりません。最終的には「経営者が負うべき経営責任とは何か」という経営哲学の問題に帰着します。

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