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コラム : 経営

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「経営者保証を不要とするために」

 経営者保証とは主として中小企業において、経営者個人(多くの場合は社長)が自ら経営する会社の借入金の返済を保証するものです。以下に述べるような問題意識から、金融庁は経営者保証の改善を目指しており、10月4日、その状況を発表しました。それによれば、2021年10月から2022年3月において、経営者保証の地域銀行の新規融資に占める依存度は64%(地域銀行99行の平均)になっており、前年同期と比べた減少幅はわずか2%に留まっています(2022年10月4日付け日本経済新聞)。
 経営者保証の存在は、万一の場合、経営者の個人資産までなくなってしまうのですから、個人生活を脅かします。それは同時に、企業家のリスク挑戦意欲の減退を招き、経済活性化の妨げにもなります。今回の発表を見ると、多くの金融関係者が問題を指摘し、監督官庁も是正を要求している割にはさほど改善されていないことが分かります。そこで、今回は経営者保証の今後の方向性について考えてみます
 まず、保証を取る銀行側の事情から見てみましょう。

人を見るか事業を見るか
 体制が確立されている大企業は別として、組織が未熟な中小企業への融資に際し、銀行融資の審査ポイントとして重視すべきは、人(経営者)なのか事業なのか、ということは古くから大きなテーマでした。人の重要性を強調する論者は、経営者の信用は事業成功の大きな要因であること、そして、もし万一事業に失敗しても、信用できる経営者であれば、借入金の返済についても誠実な対応が期待できる、といったことを主張します。一方、事業の方が重要だという人は、融資の返済は直接的には融資対象である事業から行うのだから、経営者の人格など関係なく、事業の状況や将来性だけに焦点を絞るべきだとします。
 日本の銀行では昔から、「人を見て融資をしろ」というようなことがよく言われました。最終的には人(経営者)の信頼性が重要だということになれば、事業の現況や収益予想を気にかけるより、経営者の健康状態、精神状態、あるいは家族の状況などが重要になります。その延長線上に、「最終的には私財を投じても返済してもらう」という経営者保証が存在し、広く普及したと考えられます。

トコトン回収するか、早く処理して転進するか
 経営者保証の有無は、銀行における融資金の回収業務という点から見れば、次のようにいうことができます。
 経営者保証がある場合は、事業を行う会社が破綻しても、回収業務は終わりではなく、次に経営者個人からの回収に向かいます。銀行にとっては会社以外の補完的な回収手段があるわけですから、好ましいように思えるかもしれません。しかし、格別の悪意のない普通の経営者であれば、経営する会社が破綻するほどに追い込まれれば、個人財産がそれほど多額にあるわけではなく、経営者個人からの回収は労力も時間もかかる割に、実りはそれほど期待できません。また、最終的には個人生活まで踏み込むこともありますから、銀行員として気が進む仕事でもありません。
 一方、経営者保証がなければ、会社が破綻し、残余財産で回収できなければ、その時点で貸倒損失を計上すると同時に融資金額を帳簿から落とし、その案件はそれで終了となります。その結果、銀行員は心機一転新しい仕事に向かうことができます。
 経営者保証を付けて、わずかの可能性がある限り、トコトン回収努力を続けるというのは、一見、銀行の本来の姿のように見えます。しかし、現代のように変化の激しい時代には、限りある人的資源を後ろ向きの仕事にいつまでも貼り付けることが、いいことなのかは疑問です。そうした仕事には早々に見切りを付けて、新規の融資開拓に向かう方がはるかに生産的だと、私は思います。

事業に真摯に向き合う
 経営者保証は経済成長期の資金需要が旺盛であった、貸し手優位の時の前時代の遺物のようなものです。今はカネ余りで、借り手優位に変わっています。銀行はいつまでも昔の流儀にこだわり、担保や保証は多いほどいいという発想は捨て去るべきでしょう。融資金の返済財源は事業が生み出すキャッシュフローだけだと割り切った方が時流に即していると思います。
 ただ、そこに踏み出すためには、銀行は会社が行う事業にもっと真剣に向き合わなければなりません。返済財源は事業からしか出てこないのですから、融資期間中の事業の損益やキャッシュフローの状況を常時フォローし、場合によっては事業好転のためのアドバイスも必要になります。そのためには、取引先に一層踏み込むと同時に、業界知識の取得も不可欠になります。
 経営者保証を原則不要とする融資を普遍化することは、沈滞が続く日本の経済の活性化に寄与すると考えます。

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「テレワークで問い直される経営方針」

 コロナの感染拡大に歯止めがかからず、首都圏を中心に、テレワークの拡大が求められています。行政からの出勤削減要請は7割減でしたが、この水準は小手先のやりくりでどうにかできるレベルではありません。仕事全体をゼロベースでたな卸し、それぞれの業務がテレワークで対応可能かどうか、徹底的に見直す必要があります。逆に言えば、こうしたことがなければ、その効率性を検証することなく、惰性で行っていた仕事を洗い直すいい機会だととらえることもできます。
 従来、私は、テレワークの拡大は単なる仕事のやり方の変更に過ぎないと思っていたのですが、最近は、もっと根源的な経営の根幹を問い直すものになるのではないかという風に感じています(以下では、オンラインによるテレビ会議及びテレビ営業を含めたものをテレワークと称します)。

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「平時の無駄か、非常時の備えか」

 新型コロナ感染拡大に伴い、業種によって濃淡はありますが、企業は大きな打撃を受けています。直撃された業界にとっては、現在は非常時にあります。企業は非常時においてその耐久力が問われます。非常時の耐久力には平時の備えが必要になりますが、過度な備えは無駄につながります。「無駄なのか、備えなのか」、経営はいつの時代もそのバランスが問われます。

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「事業性資産担保の危うさ」

金融庁は銀行による中小企業の事業支援を促す融資改革の議論を始めた、との報道がありました(2020年11月5日付日本経済新聞)。これまでの不動産担保や経営者の個人保証に偏った融資慣行を見直し、企業の技術や顧客基盤など無形資産などを一括で担保にできる制度作りを目指す、ということです。こうした制度改革により、銀行が企業の将来性を評価して資金を出しやすくすることで、経済の再生を後押しすることを狙いとしています。
  従来の銀行融資の主たる担保は、土地や有価証券など目に見える有形資産でした。有形資産を保有するのは昔からの老舗企業が多くなりますから、有形の資産はないが、技術力はある新興企業は融資を受けにくくなります。この点が旧来の金融の問題点として、かねて指摘されており、そうした点を改善しようというのが今回の議論の出発点です。
  このように聞くと、企業が行っている事業に付随する無形資産を担保にした融資は金融の新境地を切り開く、素晴らしい施策のように思えますが、実現はそう簡単ではないでしょう。その理由は巷間言われているように、銀行員が事業性資産の評価を行うことの難しさや対抗要件の具備といった法律的問題もあるでしょう。ただ、そうした評価や法律的問題は難しくはあっても、突き詰めればテクニカルな問題であり、事業性資産担保が当該企業、地域、あるいは銀行のためになるなら、関係者は努力して、その困難を克服すべきです。私がここで懸念するのは、そうした問題とは別に、担保に関する以下のような本質的矛盾の存在にあります。

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「ジョブ型移行は望ましいのか」

新型コロナ感染防止のため、リモートワーク(在宅勤務)が普及したおかげで、この数カ月で我が国の労働者の働き方はかなり変わってしまいました。その流れが本当に定着するか、あるいは、定着することが我が国にとって本当に望ましいことなのか、ということが問われています。

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「ROEから自己資本比率へ」

 注目される経営指標はいつも同じではなく、安定している時と危機の時では視点が異なります。現在はコロナ禍に伴う戦後最大級の危機ですから、危機乗り切りの視点からの経営指標にスポットが当たります。

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「今注目される"まさか"のためのキャッシュ」

 新型コロナウイルスの感染拡大により緊急事態宣言が出されました。その結果、経済活動が極端に抑制され、存亡のふちに立たされる企業が多くなっています。そんなとき頼りになるのはキャッシュです。

 近年の日本企業は、内部留保により蓄積されたキャッシュの使い方が課題だといわれていました。内部留保は、株主が自分のカネを投じた払込資本と会社が事業で稼ぎ出す利益剰余金から構成されます。ただ、内部留保という時、一般的に意識されるのは後者の利益剰余金であることから、ここでは利益剰余金の蓄積を内部留保として扱います。
 事業で利益を上げると、最終的にキャッシュが積み上がります。内部留保により蓄えられたキャッシュの利用方法は主として次の3つが考えられます。成長に向けた投資と株主還元、そしてまさかのために備える準備資金です。この3つはいつも同様に語られるわけではなく、局面に応じて注目度が異なります。そして、非常時にある今、準備資金としてのキャッシュに俄然注目が集まっています。

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「平常時のスリム化と非常時のキャッシュ」

 新型コロナウイルスの影響は日々深刻化しています。経済活動へのインパクトも無視できないものになってきています。企業経営でも平常時モードから非常時モードへの切り替えが必要ではないかと思います。

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「役員と従業員の賃金格差拡大」

 上場企業の役員報酬と従業員の賃金格差が拡大しています(2020年1月25日付日本経済新聞)。2018年度の有価証券報告書を分析したところによれば、賃金格差は4.2倍となり、前年度比0.1ポイント増加し、4年連続の拡大となったそうです。
 消費低迷の主因は労働者の賃金が伸びないことにあると言われている中で、賃金格差が拡大しているのですから、役員報酬は増大していることになります。なぜ、一般従業員の賃金は伸びないのに、上場企業の役員報酬だけは増加するのか、何か釈然としないものが残ります。

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「関西電力の金品受領問題から考えるトップの資質」

 関西電力の会長、社長をはじめとした会社幹部が原子力発電所の立地自治体の元助役から多額の金品を受領していたことには、本当にあきれてしまいました。多い人は1億円を超えた金額を受領していたというのですから、関西電力役員陣の倫理観の欠如には驚くほかありません。
 この金品の受け取りが犯罪にあたるかどうかは分かりませんが、ある特定の人物から多額の金品を受け取っていた(しかもその原資が原発関連マネーだとすればなおさらですが)ということだけで、経営倫理的にはアウトです。彼らは関西電力及び原子力発電に致命的打撃を与えたといってよいでしょう。
 この一件を引き起こした主要因は、関西電力特有の問題にあることは言うまでもないのですが、本稿ではそうした企業の個別問題は脇に置き、一般企業が教訓とすべきことは何なのか考えてみたいと思います。

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