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「経営者の立ち位置」

2014/08/01

経営者(取締役)は株主から委託を受けて、従業員を雇用して会社を経営します。経営者は、会社において株主と従業員の結節点に当たる存在といえます。経営者の立ち位置は株主と従業員の間にあることになりますが、その比重をどちらに置くかで経営は大きく変わります。

株主を向くアメリカと従業員を向く日本
 一般的に、アメリカと日本では次のように異なると言われています。
アメリカの大企業の経営者は会社外部のMBA取得者などの経営専門家の中から選ばれることが多くなります。経営者は株主から経営を任せられるのですから、株主利益最大化を唯一の目的に会社を経営します。一方、日本では、経営者は会社外部ではなく内部の従業員の中から選ぶのが普通です。その結果、経営者は株主だけでなく従業員利益にも重大な関心を寄せます。経営者のこうした選抜方法の相違は経営手法の違いに表れます。
アメリカの経営者にとっては株主価値が第一であり、経営者の報酬は株主価値の上昇にどれだけ寄与したかを基準に決められますから、従業員とまったく懸け離れた高額報酬でも平然と受け取ります。また、従業員に余剰があるとすれば、雇用削減に躊躇しません。その際、従業員のリストラで株価が上昇すれば、経営者は自分の収入を増やすことができると考えます。株主価値の観点から重視される財務比率はROE(自己資本利益率)ですから、財務の安定性を犠牲にしても、ROE上昇のために借入金の増加や自社株買いなどの財務戦略を重視します(レバレッジ経営)。
これに対し、日本の経営者は従業員から選ばれますから、経営者の報酬も株主価値の増加より、従業員給与の延長線上で決められることが多くなります。また、同じ釜の飯を食った従業員の解雇を冷淡にすることはできませんし、社内事情や歴史に詳しいだけに急激な路線転換も得意ではありません。従業員のリストラをすれば、自分の給料も下げなければならないと考えるのが日本の経営者の普通の感覚でしょう。会社の存続が第一ですから、重視する指標は自己資本比率になります。
株主目線の経営
 我が国は従来内部昇格を基本にしてきましたが、最近は社外取締役の議論に見られるように、外部経営者の積極的な導入が注目されています。その背景には、日本企業が守りの経営になり、成長のための投資に打って出ることができず、かといって株主還元をするわけでもなく、やたら内部留保を貯め込んでしまうのは、経営陣を内部昇格者に限定していることに原因があるのではないか、という見方があるからです。そこで、企業のガバナンス体制を変革しようというのです。
社外取締役を増やせば、株主目線からROEを重視した経営や株主還元を積極的に行えるのではないか。また、ベネッセやサントリーのようにトップ経営者を外部から招聘すれば、内部昇格者にはできない思い切った成長策が取れるのではないか、といった期待があるのです。
現在の潮流は、経営者の立ち位置を従業員の側から株主に移すことを促しています。それは経営層の流動化につながります。日本的経営は、終身雇用という言葉に象徴されるように、新入社員から社長までつながる縦の結びつきの強さが大きな特色です。それが会社に対する忠誠心を生み、滅私奉公型の労働に駆り立て、日本経済成長の原動力になっていました。しかし、経営層が流動化し外部経営者が多くなれば、会社内の縦の結びつきが弱まり、経営層と従業員の溝が深まります。その結果、従来型の従業員のモチベーションが下がることが予想されます。また、外部経営者は社内のしがらみもありませんから、成長のためのドラスティックな事業転換やリストラも実施しやすくなるでしょう。そうなると、従業員レベルでも雇用の流動化も進まざるを得なくなります。
株主目線の経営は短期的な株価上昇のみが目標となり、長期的視野に立った経営ができない、あるいは、雇用の流動化は日本社会になじみにくいといった批判もありますから、こうした動きがどの位の速さでどこまで広がるかは分かりません。ただ、その当否はさておき、長期安定的な社会がより流動化していくという方向性は不可逆的です。経営者は従業員にこれまでと違ったモチベーションの与え方を考えなければならないでしょうし、従業員の側も、流動化に対応できるような個々人のスキルを鍛えておかなければなりません。

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