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「関西電力の金品受領問題から考えるトップの資質」

2019/11/01

 関西電力の会長、社長をはじめとした会社幹部が原子力発電所の立地自治体の元助役から多額の金品を受領していたことには、本当にあきれてしまいました。多い人は1億円を超えた金額を受領していたというのですから、関西電力役員陣の倫理観の欠如には驚くほかありません。
 この金品の受け取りが犯罪にあたるかどうかは分かりませんが、ある特定の人物から多額の金品を受け取っていた(しかもその原資が原発関連マネーだとすればなおさらですが)ということだけで、経営倫理的にはアウトです。彼らは関西電力及び原子力発電に致命的打撃を与えたといってよいでしょう。
 この一件を引き起こした主要因は、関西電力特有の問題にあることは言うまでもないのですが、本稿ではそうした企業の個別問題は脇に置き、一般企業が教訓とすべきことは何なのか考えてみたいと思います。

社外役員は防げたか
 こうした企業不祥事が起こるたびに繰り返される議論に、取締役や監査役などの社外役員は機能していたのか、というものがあります。関西電力では社内調査の結果も取締役会に報告していなかったということですから、普通の社外役員はこの事実を知らなかったことになります。つまり、経営トップが隠蔽してしまえば、社外役員がこうした不祥事防止に権限を振るうことはできないのです。
 だからといって、社外役員が免責されるというわけではありません。社外役員が経営全般を把握できるような体制を築くべきだという意見も当然あります。ただ、経営トップがまったく信じられないという前提で、防止体制を構築するとしたら、膨大な時間とコストがかかります。それよりも、そうした不祥事を起こさない経営トップを選任するシステムを構築する方が生産的でしょう。

前例踏襲、課題先送り
 関西電力がこの不祥事を自力で解決できる契機あったとしたら、それは経営トップ、つまり社長の交代時にあったように思います。
 社長が変わったとき、元助役から菓子折りが届けられ、その菓子の下に100万円以上もする金貨なり小判が隠されていたら、「これはおかしい。今まで君たちはこんなことをしていたのか。これからはこうしたことを根絶する」と対策に乗り出すことが、なぜできなかったのか。社長という最高権力を握ったのですから、やろうと思えばできる権限はあったはずです。できなかったのは、"倫理観の欠如である"という陳腐化した決まり文句で片付けてしまってはいけないのだと思います。
 公益企業である関西電力の役員たる者が、100万円以上もする金品を受け取れば、これは倫理的にまずいと思わないわけがありません。では、なぜ彼らはそのまま受け取り続けたのか。そこには根強い"前例踏襲、課題先送り"体質があったのだと思います。こうした金品の受け取りは、現社長になる相当前から続いていたはずです。そこで、歴代の新任社長は次のように考えたのではないかと推測します。
 「確かに金品の受領は問題だが、もう何十年も続いていて発覚していないのだから、大丈夫だろう。もしこれを解決しようとすれば、社内外に相当の軋轢が生じる。これまでの先輩も放っておいて問題なかったのだから、何も今、自分が手を付ける必要はない。自分の任期中に表面化することはないだろうから、自分も放っておこう。先送りしているうちに誰かが解決してくれるだろう。」
 事実、そのとおり事態は推移していたのですが、その甘い期待を吹き飛ばしたのは金沢国税局の税務調査だったというわけです。関西電力の役員陣も、さすがに税務調査までも予見変数に取り込んでおくことはできなかったということなのでしょう。

負の遺産を残さない
 無論、本件は原発事業を抱える関西電力独自の企業体質が主因ですが、日本企業に共通する"前例踏襲、課題先送り"体質も大きな要因として働いたと思うのです。そう考えると、一般企業が学ぶべき教訓も見えてきます。
 経営トップに求められるべき資質は、優柔不断な先輩を見習い、守ることではなく、次代を担う後輩たちに負の遺産を残さないように、どんな障害があろうとも、悪しき前例を取り除く勇気なのだと思います。ただ現実的に考えると、社内秩序を忠実に守り、先輩の覚えがめでたい人たちが昇進し、自分に刃を向けるような人間を遠ざけるのが普通でしょうから、そうした勇気を持った人が経営トップに座ることは難しいのではないか、という気もしてしまうのですが。
 スッキリした結論に持ち込めないのが何とも歯がゆいのですが、今回の関西電力の問題をどのように"他山の石"とすべきか、それぞれの企業で考えてみる必要があると思います。

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