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「収益力の低下が招く波及的な損失」

2020/08/03

 新型コロナウイルスの蔓延により、戦後最大級といわれる経済停滞に陥っています。その結果、国内外の需要と供給が低迷し、必然的に企業業績の悪化を招来しています。事業そのものの業績不振による損益悪化はやむをえないのですが、現在の会計基準では本業の収益低下が連鎖的に会計上の損失を膨らませ、結果的に大きな最終損失を招くことに注意しなければなりません。その代表的な事例が減損会計と税効果会計です。

減損会計

 固定資産は原則として取得価格で貸借対照表に計上されます。しかし、その価格の妥当性を検証することが求められます。減損会計では、固定資産の価格には将来その資産が生む収益力が反映されると考えます。たとえば、賃貸アパートを購入しようとする場合、同じ場所で同じ形態のものでも、満室のアパートと半分しか埋まっていないアパートでは購入価格に差があります。それなら、当初購入したときには満室であったアパートの住居人の半分が出て行ってしまったとすると、その賃貸アパートの価格は下がったことになります。その価格低下を財務諸表に表現させようとするのが減損会計です。
 事業用の固定資産も同様です。建物や機械を購入する場合、これからの事業展開における収益で回収できると判断する価格で、建物や機械を購入しているはずです。それが当初の思惑と異なり、新型コロナウイルスによる自粛の影響で、その固定資産で生産される製品の需要が落ち込み、取得価格が回収できないほど収益が落ち込めば、減損損失の計上を検討しなければなりません。
 減損損失は、過去に他の企業を買収や合併した時に計上した"のれん"においても発生します。買収対象企業の収益力を前提に計算された"のれん"は、その企業の収益力が大きく落ち込んだ時には減損を迫られる可能性があります。

税効果会計

 税効果会計とは会計と税務の認識の違いを調整する会計処理です。たとえば、会計上の費用の認識は今期ですが、税務上の損金の認識は今期ではなく来期になる場合があります。そうすると、今期に納付する法人税額は会計上の利益に比べて過大になります。実際に法人税額が減るのは、将来その費用が税務上損金と認識された時点になります。こうした場合、今期に納付する法人税は将来の法人税の前払いと考えて、貸借対照表に繰延税金資産という資産を計上します(同時に、損益計算書には法人税等調整額という利益が発生します)。ただ、ここで計上された繰延税金資産は法人税の前払効果が認められるときにだけ計上できます。ところが、その将来時点に所得(利益)がなければ、元々税金が発生しないのですから、そこで損金が増えても税額は減少せず、税額の前払効果は認められません。この場合は、繰延税金資産の資産性が否定されることになります。
 新型コロナの影響で今期の収益が不振で、将来における収益予想も落ち込めば、将来収益力があるという前提で計上してある繰延税金資産は取り崩さなければならなくなります。このときには損益計算書に費用が発生することになります。

収益力低下は波及する

 このように現代の会計においては、収益力の影響は単に現在の損益計算書にとどまらず、過去に貸借対照表に計上した資産をも動かします。本業の収益力が高ければ、税効果会計で繰延税金資産という資産を計上し、資産総額を増大させることができます。一方、収益力が悪化すれば、既に積んだ繰延税金資産を取り崩さなければなりません。また、減損会計が適用されると、既所有の固定資産を減額しなければならなくなります。それは当然に、複式簿記ですから資産減額の反対勘定として、損益計算書の損益を再び揺り動かします。
 つまり、本業の収益力の悪化の影響は本業だけに止まらないのです。今の収益が続くという前提で貸借対照表に計上してある資産価格の修正も迫ります。本業の収益の悪化は意外と幅広い波及効果を持ち、最終損益に打撃を与えることに注意しなければなりません。


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