前回は、中長期的な安全性指標の一つである「自己資本比率」を取り上げました。
今回は、短期的な資金繰りの安全性を示す「手元流動性」について説明します。
「手元流動性」とは、直ぐに自由にできる資金が、月商に対してどれだけ持っているかを表すものです。
つまり、【(現預金+直ぐに現金化できる資産+直ぐに調達できる資金)÷月商】です。
ほとんどの会社の場合、資金がボトムになるのは給料日です。時には予定していた取引先からの入金が無く、支払資金に窮するような不測の事態が生じることもあります。
これらボトムの水準にある時でさえも、資金が底をつかないよう、余裕を持った資金繰りを行うことが、会社経営における重要な課題の一つといえます。
手元流動性の目安として、「中堅企業は1.2~1.5ヵ月分、中小企業であれば1.7ヵ月分程度の月末資金を保有すべき」と、経営コンサルタントの小宮一慶氏は解説しています。
他方、経験則から自社の現預金の水準を定めている経営者も多くおられます。
私は、この現預金の水準を定めることは、次の二つの理由から素晴らしい習慣だと考えており、実際に経営コンサルの場面において「安定的な現預金水準の設定」を推奨しています。
理由の一つ目は、経営者が冷静かつ正確な経営判断を行うためにも、そして「お客さま第一」の経営に取り組むためにも、自社の資金繰りの心配をしないで済むような状態を作ることが大切であること。
二つ目は、現預金が増加することで、損益計算書上で利益が計上され、かつ資金回収が順調に進んでいることを実感することができる、というものです。
もし、適正水準の現預金を下回ってしまった場合には、損失が発生しているか、どこかで資金が滞留している可能性が高いといえます。その場合、早急にその確認と対策を講じる動機となり得ます。
私はコロナの影響が出始めた2020年2月の社内朝礼で、「予測不能な事態が発生している様子なので、お客様の所に伺った際には手元流動性を高めるよう提案してください」と伝えました。
「手元流動性を高める」というのは、在庫の圧縮、滞留売掛金の早期回収、遊休資産や投資等資産の資金化に努めると共に、金融機関からの借入の実施や借入枠の設定など、様々な手元資金の増加策を実行することを意味します。
会社は、手形の不渡りは言うに及ばず、決済に必要な資金が無ければ事業継続が危ぶまれます。
松下幸之助氏は、有名な「ダム経営」という言葉を残しています。
日頃からダムに水を貯えることにより、季節や気候に左右されることなく、常に必要な一定量の水を使えるがごとく、余裕、ゆとりをもった経営を行うことの大切さを説かれました。
「ダム経営」を見習い、いつも安定した水(資金)を経営に供給できるような、余裕を持った資金繰りの実践をご検討ください。
(2023年2月あがたグローバル経営情報マガジンvol.78 「試算表を読みこなすための経営指標(基礎編)」に掲載)