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【経営KEYWORD】「統合報告書」

2022/10/18

統合報告書はその名の通り2つの報告書、すなわち財務報告書と非財務報告書を1つに統合した報告書となります。この統合報告書が有用な報告書となるためには、単に2つをくっつけるのではなく、「統合思考」に基づいて作成することがポイントです。


「統合思考」とは、企業活動の結果としての財務情報と、社会的課題への対応としての非財務情報が、お互いに企業価値の創造に繋がるものとして両者を関連付けることです。その「統合思考」の成果を統合報告書で表現することとなります。そのため、統合報告書は財務情報と非財務情報による企業価値創造のプロセスを可視化するものになります。


企業は継続企業が前提であり、そのためには収益をあげコストを可能な限り削減して利益を最大化していく必要があります。その結果は財務報告書に表されますので、利益が多い企業や総資産・純資産が大きい企業が優良な企業であると一般的には考えられます。


他方、非財務情報は社会的な課題に対して企業がどのように対応していくのかを示しています。例えばかつての公害への対応や企業の社会的責任(CSR)、最近ではESGや国連が提唱した持続可能な開発目標(SDGs)、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)にみられる気候変動への対応などです。これらへの対応は一見すると単にコストが発生するだけで、企業の利益に結びつかないのではないかと考えられます。


しかし、社会的課題への対応は企業を取り巻く様々なステークホルダーからの要望でもあります。例えば、特に喫緊の課題として挙げられている地球温暖化への対応は、日本においても近年の異常な豪雨・豪雪など具体的な被害として顕在化していることからも、現実的な課題として顕在化しています。

そのため、何らかの対応策の実施は必要ですが、その対応策がどのように企業利益に結び付くのか、丁寧な説明が求められます。例えば脱炭素化への対応について、それがブームだから対応するのではなく、自分の企業にとっても脱炭素化の対応が企業利益に繋がるストーリーを説明できることが必要です。単に企業のイメージアップに繋がるからという理由だけではなく、具体的な収益獲得に貢献できることを説明することが必要です。対応しないことによるレピュテーションリスクの回避といったマイナスの戦略ではなく、具体的な利益獲得に繋げるプラスの戦略を示すことが重要です。


若干話は逸れますが、欧米の機関投資家は脱炭素に対する厳しい対応をしていました。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻によるヨーロッパでの天然ガス確保(原油と比較すると各段に温暖化ガスの排出が少ない)が難しくなり、原油への回帰が始まると、脱炭素に対する厳しい方針を転換するところが出てきたとの報道がありました。これは、温暖化対策への考えが脱炭素化という1点のみで、社会と企業の両方の発展に繋がる視点が欠けていた一つの例ではないかと思います。


「統合思考」は目先の利益ではなく、社会とともに企業も発展していく、長期の利益に目を向けた考え方だと思います。このため、単にブーム的な話題に対して対症療法的に対応するのではなく、社会的な課題の解決と自社の発展を繋げられるストーリーを構築する思考だといえます。


(2022年10月あがたグローバル経営情報マガジンvol.65 「今月の経営KEYWORD」に掲載)

執筆者

鮎澤 英之Hideyuki Aizawa

マネージャー・公認会計士・公認不正検査士

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