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【経営KEYWORD】「インフレ警報」

2022/04/19

 ここ最近、原油価格の高止まりが続いています(WTI原油先物価格は1バレル当たり100ドル強で推移)。原油価格が上昇すると発電コストが上がり、電気代、金属資材、石油化学製品など様々なモノの値段に波及します。日銀が継続する金融緩和政策、3年目に突入したコロナ禍のサプライチェーンの混乱、混迷を深めるウクライナ情勢と相まって、容易に解消しそうにありません。
 企業経営においては仕入や販管費の上昇が不可避なので、販売価格を上げるか、人件費など他の費用を削るかしないと帳尻が合いません。


では、人件費を下げる余地はあるのでしょうか。


 総務省統計局の調査によれば、高齢就業者数は2012年から2019年までの間、毎年30万人から50万人ずつ増加してきました。つまり、体が動けるうちは働きたいという高齢者が多く、高齢就業者数はここ10年で一貫して増加してきました。


https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1262.html 図5高齢就業者数の対前年増減の推移より 総務省統計局)。しかし、団塊の世代(1947年から1949年生まれ)が2024年に75才(≒健康寿命)を超えるため、高齢就業者数の増加はもはや期待できません。
 また、女性の労働参加に伴う就業者数もここ10年で一貫して増加してきました。専業主婦世帯から共働き世帯への切り替えが進んだことが背景にあり、女性の就業率は2010年頃の60%から、直近では70%を超え、国際比較において諸外国とそん色ない水準です(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-02-02.html 1-2-2図OECD諸国の女性(15~64歳)の就業率より 男女共同参画局)。一方で、女性の社会進出が進んだヨーロッパ諸国と比較し、日本では女性就業者の多くは低賃金、非正規労働者が多く、保育や介護時間の男女格差も指摘されています。過去10年の延長で、日本だけが女性の就業者数のさらなる増加を期待することは難しいと考えられます。


 このように、過去10年続いてきた労働市場への労働力供給は、今後一定の制約が加わり、頭打ちになりそうです。「モノの値段は需要と供給が一致するところで決まる」とは経済学が教えるところであり、労働市場の供給が不足すると、賃金水準が上昇すると考えられます。これまで高齢者や、非正規の女性労働者に頼っていた業界ほど人件費増加の影響を受けやすくなります。
 企業にとっては、さまざまなコストが増加傾向にある中で、人件費はもはや削減余地に乏しく、自社の商品・サービスの値上げを真剣に考える時期が近づいていると考えます。


(2022年4月あがたグローバル経営情報マガジンvol.46
今月の経営KEYWORD」に掲載)

執筆者

稲垣 泰典Yasunori Inagaki

公認会計士・税理士

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