税務トピックスQ&A 2023年3月号
Q.優秀な人材確保や従業員の離職を防ぐために従業員の奨学金返還を支援する企業が増加していると聞きました。当社でも導入を検討したいと思いますので、返還を支援した場合の課税関係を教えてください。
A.■取り扱いの概要
所得税法上、学資に充てるために給付される金品は一定のものを除き非課税所得として規定されています。平成 28 年度改正では、一定の従業員が会社から受けるもので、通常の給与に加算して受ける学資金が新たに非課税とされました。
非課税と取り扱うためには、通常の給与に加算して支給することが必要となり、本来の給与を減額して通常の給与の代わりに支給する場合は給与課税とされます。また、学資に充てることが必要となり、支給した金品が奨学金の返済に充てられたのか明確でないものも原則として給与課税とされます。
奨学金の返還支援が給与所得に該当する場合には、毎月の返還時に源泉徴収が必要となります。企業側では、返還支援が非課税、給与課税のいずれに該当する場合でも、原則として返還金の支給年度の損金となります。
企業における奨学金の返還支援制度は、2021 年 4 月にスタートした独立行政法人日本学生支援機構(以下、学生支援機構といいます。)の奨学金返還支援(代理返還)制度を利用するケースと従業員を経由して返還するケースが考えられますので、それぞれの取り扱いをご説明します。
■ 学生支援機構の奨学金返還支援(代理返還)制度を利用するケース
学生支援機構の奨学金返還支援(代理返還)制度は、企業が学生支援機構の貸与奨学金(第一種奨学金・第二種奨学金)を受けていた従業員の返還額の一部又は全部を支援する制度となります。
企業から学生支援機構に直接返還される仕組みであるため、学資に充てられたことが明らかとなります。そのため、同制度による返還支援であれば、給与課税の潜脱を目的とするものを除き、原則として非課税となります。
■従業員を経由して奨学金の返還に充てるケース
次に従業員が通っていた大学や団体等の奨学金を利用していた場合や学生支援機構の貸与奨学金を利用していた場合でも、学生支援機構の奨学金返還支援(代理返還)制度を利用しない場合の取り扱いをご説明します。
この場合、企業から大学や団体等及び学生支援機構に直接返還することができないため、返還分を従業員の給与に上乗せして従業員自身が奨学金の返還をする仕組みを採らざるを得ません。
国税庁によると従業員を経由して奨学金を返還支援する場合でも、企業が給与に上乗せした返還分について、その奨学金が学資に充てられており、かつ、返還分が奨学金の返還に充てられることが明らかであると確認できる場合は、非課税の学資金として取扱って差支えないこととされています。
ただし、税務調査では特定の従業員への経済的利益の供与が問題となるケースは多くあります。奨学金の返還支援も特定の従業員に対して行うことが一般的であることから、事前に奨学金の種類を踏まえて、返還支援の方法を検討しておくことが肝要となります。
■奨学金支援制度導入企業サポート事業
長野県では、従業員の奨学金返還支援制度を設ける県内企業に対して負担額の一部を助成する事業を 2023 年 4月から開始予定です。
各年度 3 名を上限として、企業が負担した額の 1/2(1 人当たり年額 10 万円を上限)が助成されるため、奨学金返還支援制度を検討される場合には、県のサポート事業も併せてご検討ください。