「税務トピックスQ&A 5月号」掲載
Q.最近、「名義変更プラン」と呼ばれる生命保険が行き過ぎた節税だとして、金融庁が問題視しているとの報道がありました。この保険の税務上の取扱いと留意点を教えてください。
A.「名義変更プラン」とは
生命保険が、法人の節税対策の一つとして活用されてきたことは事実ですが、保険業を監督する金融庁の立場としては、過度に節税を強調した保険販売は不適切だとみており、他方で、国税庁も保険料の損金算入を容易に認めないよう何度も通達を改正してきており、いたちごっこを繰り返してきました。
こうした中で、19 年以降に「名義変更プラン」と呼ばれる節税保険が登場しました。これは、保険契約期間中に法人から個人へ名義変更することを前提に、法人が支払う保険料の全額または一部を損金算入することができる保険のことです。国税庁は、21 年6 月に「名義変更プラン」による過度な節税を抑制する通達改正を行いました。
「名義変更プラン」の税務上の取扱い
経営者の方々に抑えておいていただきたい税務上の取扱いを、事例を用いてご紹介します。
【加入する生命保険】
保険種類:低解約返戻金特約の逓増定期保険保険契約者:法人
被保険者:社長
年間支払保険料:600 万円
解約返戻金:3 年目100 万円、5 年目3,000 万円最高解約返戻率:80%
【前提条件】
3 年目に社長が法人から保険を解約返戻金相当額の
100 万円で買い取り、個人名義に変更をした後、5 年目に保険を解約するものとします。
【通達改正前の取扱い】
社長は、100 万円で保険を買い取り、5 年後に保険を解約すると3,000 万円を受け取ることになります。改正前の通達によれば、3,000 万円と買取金額 100 万円との差額2,900 万円は一時所得として課税されました。一時所得は、50 万円を超える金額の1/2 しか課税されないため、税負担は比較的少なくて済んだわけです。
【通達改正後の取扱い】
こうした節税を防ぐため、改正後の取扱いは次のようになりました。
①法人の取扱い
最高解約返戻率が 70%超 85%以下であるため、支払った保険料のうち60%が資産計上され、40%が損金算入されます。したがって、600 万円×3 年×60%=1,080 万円が資産計上されます。
②社長に名義変更した際の取扱い
名義変更する際の解約返戻金相当額が法人の資産計上した金額の70%未満である場合には、資産計上額に相当する経済的利益が社長に供与されたものとされます。したがって、1,080 万円と買取金額100 万円との差額は、社長に対する給与所得(一時所得よりも税負担が重い)として課税されます。これが改正のポイントです。
③解約時の取扱い
解約返戻金3,000 万円と1,080 万円との差額1,920 万円が一時所得の対象とされます。
生命保険に関する税務上の留意点
過度に節税を強調した保険商品の販売が 18 年ごろから目立つようになり、これに対応するため通達が 19 年と 21 年に改正されました。本稿で取り上げたのは、そ の一例にすぎません。保険の加入や名義変更に際しては、近年の通達改正を理解した上で、検討していただくこと をお勧めします。