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コロナ禍における自社株式の評価額

2021/09/01

税務トピックスQ&A 9 月号


Q.毎期決算終了後、顧問税理士に株価計算を実施してもらっています。今期はコロナ禍の影響で赤字決算となったのですが、株価は前期(黒字)より上昇していました。なぜでしょうか?


A.自社株式の相続税評価額

中小企業のオーナーが保有する自社株式の相続税評価額は、後述の「類似業種比準価額(A)」と「純資産価額(B)」という 2 つの株価を組み合わせて算出されますが、この組み合わせは株価計算上の『会社規模』により、下表のように定められています。



 なお、『会社規模』は評価会社の直前期の「従業員数」

「総資産額」「取引金額」で判定され、人数または金額のうち大きい方が上位の『会社規模』に区分されます。


類似業種比準価額と純資産価額

類似業種比準価額は、評価会社と同業種の上場会社の平均株価に「配当」「利益」「簿価純資産」の各指標を比較して算出した倍率を乗じて計算した株価となります。



 一方、純資産価額は貸借対照表に計上されている資産・負債の各科目の金額を相続税評価額に置き換えて計算した一株当たりの純資産の金額となります。これは創業時からの内部留保の蓄積であることから、類似業種比準価額より純資産価額の方が高い金額が算出されることが一般的であり、3~5 倍程度の株価の違いがあることも見受けられます。


株価上昇の要因

 類似業種比準価額と純資産価額ともに利益の多寡に伴い株価は当然ながら増減します。ご質問の「利益は減少したが株価は逆に上昇した」要因として考えられる点は、次のとおりです。

 ① 『会社規模』の変更

 コロナ禍の影響による取引高(売上高)の減少に伴い『会社規模』が下位区分に変更。その結果、相続税評価額に占める純資産価額の割合が上昇したこと。

 ② 上場会社の株価上昇

 上場会社の株価が昨年以降上昇しており、連動して類似業種比準価額が上昇したこと。

 また、上場株式を保有している場合も純資産価額の増加につながります。


継続した株式評価の必要性

 自社株式の相続税評価額の算定上の『会社規模』は直前期の決算数値等に基づき判定されるため、結果の判明後に対策しようとしても、決算数値等は確定しているため出来ません。決算日が近くなれば、今期の売上高・利益状況を見通すことは可能であると思われるため、決算後の株価をある程度シミュレーションすることは可能です。自社株式の贈与を検討している会社にとっては、株価の変動は重要な要素となりますので、決算前後の株価を比較し、どのタイミングで贈与するのが適切なのかの目星をつけておく必要があります。

 また、株価計算を継続して実施している会社も算出された株価を確認するだけで終わらせるのはなく、何故その株価になっているかという要因を把握しておくことをお勧めいたします。

執筆者

山崎 健兒Kenji Yamazaki

相談役・税理士

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