「経営トピックスQ&A 8月号」掲載
Q.経済ニュースで「事業ポートフォリオマネジメント」という言葉を目にします。「事業ポートフォリオマネジメント」に関するポイントや事例を教えてください。
A.■日本企業と戦略
「戦略を持っている日本企業は稀である」。競争戦略の第一人者であるマイケル・ポーター氏が、著書『日本の競争戦略』で指摘したのは2000年のことでした。ここでいう戦略の核心は、「何をしないかを決めること」です。当時、日本企業が収益性を犠牲にしてまで市場シェアや売上高の成長を追求し、全く関連性のない分野にまで多角化した事例が散見されました。関連性の低い多角化は、米国企業に比べて日本企業の収益性や資本生産性が低い要因のひとつであると見られています。
■事業ポートフォリオの見直し
近年、変化の兆しが見られます。20年7月31日に経済産業省が、「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~」(以下、「事業再編ガイドライン」)を公表しました。事業ポートフォリオマネジメントは、企業理念や経営戦略等に基づき、事業の組み合わせを見直すことを指します。見直しにあたっては、自社の競争優位性を発揮できる成長分野に経営資源を集中することが重要です。そして、自社が「ベストオーナー」であるかどうか、という視点がポイントとなります。これは、ある事業を自社で担うことが本当にその事業の価値を高めることにつながっているのか、当該事業を本業としている他社に託した方が良いのではないか、といった視点です。
一部の日本企業は、事業ポートフォリオを積極的に組み替えており、自社が「ベストオーナー」であるかどうかの視点で、事業を切り出すとともに新事業に投資しています。
■オムロンの事例
オムロンは、売上高成長率とROIC(投下資本利益率)を軸とした「経済価値評価」と、市場成長率と市場シェアを軸とした「市場価値評価」をもとに、事業ポートフォリオを見直しています。19年に車載事業を日本電産に譲渡し、21年に電子部品の一部事業をミネベアミツミの子会社に譲渡しました。そして、22年2月に医療分野のビッグデータを活用する会社に出資し、ヘルスケア事業でモノからサービスへの転換を進めています。
■オリンパスの事例
オリンパスは、22年の経営戦略の重点項目の1つを「事業ポートフォリオの選択と集中」としていました。同社にいたっては、驚くことに、祖業である工業用顕微鏡を手がける科学事業を、23年4月に米投資ファンドに譲渡しました。譲渡により得た資金を医療機器関連のM&Aなどに投じ、医療分野に経営資源を集中させると見られています。
■まとめ
事業間の相乗効果が薄く競争優位を築けない場合、多角化を維持することは、限りある資本の浪費につながってしまうかもしれません。「何をしないかを決めること」は簡単ではありませんが、比較的余裕のある早い段階で意思決定した方が、取り得る選択肢は多いはずです。
事業再編ガイドラインは大規模・多角化・グローバル化した上場企業が主な対象です。それ以外の企業であっても、複数事業を担う企業にとって参考になる考え方が紹介されています。事業ポートフォリオの見直しについて、どこから手を付けてよいのかお悩みの場合、まずは事業再編ガイドラインをご参考にされてみてはいかがでしょうか。