■資本収益性
今回は、企業の資本(元手)をどれだけ活用できたかを示す指標を紹介します。このような指標を資本収益性と呼ぶことがあります。
■筋肉質の経営
京セラや第二電電(現KDDI)の創業者であり、JALの再建に貢献した稲盛和夫氏の著書「実学」では、次のような一節があります。
『経営者はぜい肉のまったくない筋肉質の企業を目指すべきなのである。私はそのことを「筋肉質の経営に徹する」と表現しているが、それは私の会計学のバックボーンになっている。』
では、「筋肉質の経営」とはどのような経営なのでしょうか。
同書によれば、例えば、製造設備を購入する場合、もし中古で間に合うのなら中古の機械や設備で我慢し、現在ある機械をいかに使いこなすかを徹底的に考え、創意工夫をこらします。また、売れる見込みのない在庫は早く処分し、不良資産を抱えないようにします。
他にも筋肉質な経営を目指すための重要な考え方が説明されていますが、ここでは、「限られた資源を大事にいかす」、「不良資産を落とし会社の資産をスリムにする」といった点に着目しようと思います。
■ROA
経営が筋肉質かどうかを測る上で、ROAが活用できるのではないかと考えます。
ROA(Return on assets)は資本収益性の指標のひとつで、総資本利益率のことを指します。
ROAは、企業が所有する総資産を使ってどれだけの利益を上げているかを表し、「利益÷総資産」で計算します。分子にどのような利益を使用するかは考え方によってさまざまですが、当期純利益を使用することがあります。分母の総資産も考え方によって期首残高・期中平均残高・期末残高のいずれかを使用しますが、計算の簡便さを優先して、期末残高で計算することも一案です。
■経営とROAとの関連性
既存の設備を創意工夫により使いこなして、分母の総資産を増やすことなく、分子の利益を増やすことができれば、ROAは上昇します。不良資産を処分し費用処理した場合、その翌事業年度以降は、利益が例年の水準であったとしても、不良資産の処分により資産がスリムになった分、ROAが上昇する可能性があります。
逆に、利益につながらない設備投資あるいは本業以外の投資が増えた場合、また、不良資産が増えた場合もROAは低下します。
ROAは中長期的に傾向をチェックしていく見方が適していると考えます。抜本的な構造改革でもない限り総資産を短期間でスリム化することは難しいと思われます。また、多額の設備投資をした場合、その効果が出て利益につながるまでにタイムラグが生じることもあります。
ROAについては、毎年の結果に一喜一憂するのではなく、低下傾向にないか、あるいは、設備投資したのであればその後徐々に上昇しているか、といった視点で経営の振り返りに活用することが有用であると考えます。