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「ジョブ型雇用で問われる主体性」

2023/12/01

 経団連は会員企業にジョブ型雇用の導入を増やすように求めており(23年11月7日付け日本経済新聞)、日本の大企業の雇用形態はメンバーシップ型からジョブ型に変わりつつあるようです。それは時代の趨勢ではあるのですが、我々日本人がジョブ型に上手に対応するのはそれほど簡単ではないように思います。なぜなら、この雇用形態の変化は単に働き方にとどまらない、個人の生き方全体にも影響するものだからです。それだけに、早くからそれに備えておく必要があります。

 

主体的なジョブ型と受け身のメンバーシップ型

 一口にジョブ型、メンバーシップ型といっても、それぞれの企業で様々なバリエーションがありますが、類型的には次のように整理されます。ジョブ型は明確に定義された職務に対し、そのスキルを持った人間を雇用します。給料はスキルに対して支払われますから、年齢に関係なくスキル次第で高い給料を受け取ることができます。一方、メンバーシップ型は、自分が会社で果たすべきジョブは事前に明確になっておらず、どこでどんな仕事をするかは会社の都合によります。給与はその会社に所属していることの対価ですから、所属期間が長いほど、つまり年功序列を基軸に決められます。

 つまり、ジョブ型ではどんな仕事をするのかは個人が主体的に選びます。そして、その仕事をするために必要なスキルは自ら備えなければなりません。一方、メンバーシップ型はどの会社に入るかは自分で決めますが、どんな仕事をするかは会社の都合に左右され、個人が携わる仕事は受動的に決められることになります。したがって、仕事に必要なスキルはOJT等で会社側が準備することになります。仕事を主体的に選ぶのか、あるいは受動的に受け入れるのかの違いは決定的に重要です。

 個人にとっては、主体的に選択する方が好ましいように見えますが、全く白紙な状況で、多様な選択肢の中から、一つを選び出すのは、それほど簡単なことではありません。外部の力で一定の枠がはめられ、選択肢をある程度絞った上で、選択する方が楽だということもあるからです。我々日本人はどちらかというと、校則や規則、あるいはその場の同調圧力といったもので、組織の流れに身を任せ、個人の選択の余地をできるだけ狭める仕方で生きてきたように思います。そうした環境で育ってきた人間にとっては、自分の一生を企業に預ける形のメンバーシップ型雇用は割と受け入れやすいものでした。

 

メンバーシップ型雇用の行き詰まり

 メンバーシップ型雇用は日本人に適合していたということもあり、戦後急速に普及しました。しかし、近年、そのメンバーシップ型雇用は行き詰まりを見せています。それには大きく以下の2つの理由が考えられます。

 一つは経済成長への貢献の問題です。メンバーシップ型雇用では、社員は、会社の定めた目標に向かって、会社から指定された仕事を一丸となって遂行するというものでした。そうした単一的経営が戦後20~30年間は時代に適合し、高度経済成長の要因にもなったのですが、現在のような多様性の時代になると、そうした単調な経営はかえって経営の足かせになっているのではないかという問題提起です。日本はバブル崩壊後、数十年にわたる低成長に苦しんでいるのですが、メンバーシップ型雇用が持つその硬直性が経済低迷の一つの原因になっているのではないかというのです。これからは、社員の個性が重視され、個人のアイデアや創意工夫が経営にも活かされなければなりません。ジョブ型雇用の方がそうした時代に適しているというのです。

 もう一つは、個人生活への保証の問題です。メンバーシップ型は終身雇用を前提としていますから、社員が会社に忠誠を尽くす限り、現役時代に止まらず、退職金や企業年金を含めて、会社は終身に渡って、社員の面倒を見る、ということが暗黙の了解事項でした。しかし、時代の変化は激しく、どんな優良企業、大企業でもいつ何があるか分かりません。一方、医学の進歩により、個人の寿命は年々伸びていきますから、会社が個人の生活を終身まで保証するということが、現実的ではなくなりました。会社は個人の現在の働きに対しそれに見合った報酬を支払い、個人の生活は自分で守るという形のジョブ型雇用の方が、これからの時代にふさわしいのではないかというのです。

 

ジョブ型に対応するための準備

 これまでのようにメンバーシップ型雇用を維持することは難しく、様々な問題をはらみつつも、ジョブ型雇用への移行は時代の潮流だと思います。ただ、依然としてジョブ型では必須の「主体的に選択する」ということに対する訓練が我々日本人には不足しているのではないかというのが私の実感です。社会人になってからジョブ型雇用に対応するというのではなく、就職する前から、自ら主体的にやりたいことを選択し、自己主張をできるようにする訓練が必要だと思います。そのためには、教育制度も変わらなければならないでしょう。与えられた問題を解くだけではなく、自らが課題を設定し、それを解決する能力を開発できるようにしなければなりません。

 ジョブ型雇用への転換は決して個人だけの問題ではなく、日本社会全体が解決しなければならない問題だともいえます。

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