「税務トピックスQ&A 2024年1月号」掲載
Q.将来のことを考え、子供に毎年110万円の現金贈与をしています。令和5年度税制改正により贈与税の課税制度が改正されたようですが、その影響を教えてください。
A.■改正の内容
贈与税の課税制度は『暦年課税制度』と『相続時精算課税制度』の二つがあり、税制改正による主な改正点は次のとおりです。これらは2024年1月1日以降の贈与から適用されます。
1.暦年課税制度の改正点
相続財産に加算される生前贈与財産の対象が、贈与者の相続開始前3年以内から7年以内のものへと拡大
2.相続時精算課税制度の改正点
毎年110万円の基礎控除額の創設
■改正後の両制度の比較
改正後の暦年課税制度と相続時精算課税制度の比較表が下図になります。下線部が改正点です。

■改正のポイント
両制度ともに「基礎控除額」がありますが、相続財産に加算される生前贈与財産の額の算定方法が次のように異なります。
・暦年課税制度:贈与財産の額(基礎控除額を除かない)
・相続時精算課税制度:贈与財産から基礎控除額を除いた額
■具体例
仮に毎年110万円の生前贈与を8年間行い、その後、贈与者の相続が発生した場合の両制度の課税関係は次のとおりとなります。(相続税の実効税率は20%で計算)
(1)相続開始前7年を経過した贈与(8年前の贈与)

どちらの制度も贈与税が課されず、相続財産に加算される贈与財産がないため相続税負担も発生しません。
(2)相続開始前7年以内の贈与(1~7年前の贈与)

相続時精算課税制度は(1)と結果は変わりませんが、暦年課税制度は相続財産に加算される贈与財産の算定時に基礎控除額を除かないため相続税負担が生じます。
■制度選択の判断
贈与者の相続がいつ起こるか予測は困難であり、2024年の贈与が(2)の期間に該当することも十分あり得ます。よって、毎年基礎控除額内の贈与を行う場合は、2024年以降から相続時精算課税制度を適用する方が一般的に有利ということになります。ただし、相続時精算課税制度を一度選択すると暦年課税制度に戻ることはできなくなりますのでご注意ください。
■おわりに
今回は基礎控除額内の贈与に焦点を当ててご説明いたしました。基礎控除額を超える贈与は検討事項が多く、より専門的な知識が必要になるため、実行される際は事前に専門家にご相談いただくことをお勧めします。