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海外子会社との取引価格の設定について

2024/07/09

Q.当社は、海外子会社との取引が増えてきました。移転価格税制には注意したほうが良いと聞きます。どういうことでしょうか?

 

A.移転価格税制とは?

日本親会社が海外子会社等と棚卸資産などを取引する場合に、その取引価格をいくらに設定するかの問題があります。例えば、海外子会社がスタートアップ時期にあるために事業が軌道に乗るまでは、日本親会社が海外子会社へ販売する原材料等の取引価格を低く設定したり、逆に親会社が海外子会社から仕入れる製品の取引価格を高く設定したりして、海外子会社に一定の利益を留保させようとすることがあるかもしれません。あるいは、連結グループ全体で税引後利益を最大化するために税負担を軽減しようと、税率の低い海外子会社により多くの利益を配分するように取引価格を設定することがあるかもしれません。

企業は、納得すれば取引価格を自由に決めることができます。親子関係などの資本関係にある取引当事者であれば、なおさら容易に取引価格を決めることができます。日本親会社が海外子会社との間の取引価格を操作して、本来日本親会社が得べかりし利益を海外子会社へ付け替えているとすれば、我が国に納付される税額が減少してしまうため、我が国としては、これは看過できないことといえましょう。これを防止するための規定が『移転価格税制』です。

移転価格税制とは、50%以上の資本関係がある海外子会社等(国外関連者といいます。)との間で行った取引が、独立した企業間で通常の取引条件に従って取引する際に成立する価格(独立企業間価格といいます。)に基づいていない場合には、その取引は独立企業間価格よって取引したものとみなして課税所得計算を行おうとする制度です。

下図の具体例を用いて、ご説明します。

独立企業間価格が200である場合に、日本親会社が国外関連者に120で製品を販売したケースを想定します。日本の税率を40%、海外の税率を30%とします。税額は、日本で8、海外で54、合計62となります(表1)。

■(表1)実際の取引に基づく利益と税額
ここで、この取引について移転価格税制が適用されると、日本親会社は国外関連者に製品を独立企業間価格200で販売したものとみなして課税所得の調整計算をしますので、所得100について40%の税率で課税されます。その結果、税額は日本で40、海外で54、合計94となります(表2)。

■(表2)移転価格税制適用後
このように日本親会社に移転価格税制が適用されると、親会社の会計上の利益は20(表1)であるにもかかわらず、32(=40-8)の税額が追徴されることとなります(表2)。海外子会社の課税所得は調整されませんので、グループ全体で見ると同一の日本親会社から海外子会社への販売取引(海外子会社の日本親会社からの仕入取引)について、日本と海外子会社の所在地国との間で80(=200-120)の国際的所得二重課税が生じてしまっています。移転価格税制の適用により生じた二重課税を解消するためには、両国間の相互協議による合意、あるいは課税国における取消訴訟による勝訴が必要で、容易ではありません。海外子会社との取引価格価格の設定には十分な検討が必要です。
執筆者

多賀谷 博康Hiroyasu Tagaya

税理士・米国公認会計士(inactive)

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