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移転価格税制への対応

2024/07/10

Q.海外子会社との取引には十分な検討が必要とのことですが、具体的にはどういう対応を講じればよいでしょうか?

 

A.移転価格リスク対策の必要性

税務当局は国際税務担当者を増員してきており、それに連動するように移転価格税制に対する税務調査件数も増加傾向にあります。例えば、令和4事務年度における移転価格税制に係る税務調査では調査1件当たり申告漏れ所得金額は2.6億円余り、令和3事務年度では5.5億円でした。このように移転価格の税務調査では、申告漏れ所得金額は数億円に上ることも多いので、十分な事前の対策を講じておかなければ、思わぬ追徴課税がなされてしまいます。また、近年では、中堅企業も移転価格調査の対象となりつつあるようですので、中堅企業といえどもリスクマネジメントの観点からも対策を講じておく必要があるといえます。その対策とは、ローカルファイル及びローカルファイルに相当する書類(以下「ローカルファイル等」といいます。)の作成で、国外関連取引を行った法人に作成が義務付けられています。

 

■ローカルファイル等の概要

税務当局の要求に対して文書を提示等できなかった場合には、税務当局は、対象会社が営む事業と同種と認める事業を営む他社の営業利益率等を適用して独立企業間価格を算定し、それに基づいて課税処分をすることができます(これを「推定課税」といいます。)。税務当局は、その同業他社がどの会社であるかについては守秘義務があるため明かしませんので、税務当局が課税処分の根拠としたデータが正しいかどうかを検証することができません。こうした課税処分のリスクを避けるためには、事前にローカルファイル等を作成しておくことが不可欠です。

移転価格税制は、日本だけではなく、中国、韓国、タイ、ベトナムなど多くの国でも採用されています。したがって、実際にローカルファイルの作成に当たっては、単に日本の税務当局向けに作成するというだけでは不十分で、海外子会社を含めたグループ全体で整合性を持ったローカルファイル等を作成し、海外の税務当局に対しても提示等できるようにしておく必要があります。
執筆者

多賀谷 博康Hiroyasu Tagaya

税理士・米国公認会計士(inactive)

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