Q.海外子会社との取引には十分な検討が必要とのことですが、具体的にはどういう対応を講じればよいでしょうか?
A.移転価格リスク対策の必要性
税務当局は国際税務担当者を増員してきており、それに連動するように移転価格税制に対する税務調査件数も増加傾向にあります。例えば、令和4事務年度における移転価格税制に係る税務調査では調査1件当たり申告漏れ所得金額は2.6億円余り、令和3事務年度では5.5億円でした。このように移転価格の税務調査では、申告漏れ所得金額は数億円に上ることも多いので、十分な事前の対策を講じておかなければ、思わぬ追徴課税がなされてしまいます。また、近年では、中堅企業も移転価格調査の対象となりつつあるようですので、中堅企業といえどもリスクマネジメントの観点からも対策を講じておく必要があるといえます。その対策とは、ローカルファイル及びローカルファイルに相当する書類(以下「ローカルファイル等」といいます。)の作成で、国外関連取引を行った法人に作成が義務付けられています。
■ローカルファイル等の概要
作成義務者 | 国外関連取引を行った法人 ※国外関連者との取引金額が少額であっても対象となり得ます(対象法人参照)。 |
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作成期限 | 確定申告書の提出期限 ※同時文書化対象国外関連取引のみに適用されます。 |
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ローカル ファイル等の 主な記載事項 | (1)国外関連取引の内容 ①国外関連取引の詳細 ②対象法人と国外関連者の果たす機能・負担するリスク ③国外関連取引において使用した無形資産の内容 ④国外関連取引に係る契約内容 ⑤国外関連取引において支払を受けたり支払ったりした対価の額等 ⑥国外関連取引に係る損益計算 ⑦市場等に関する分析 など (2)独立企業間価格(ALP)の算定 ①独立企業間価格の算定方法 ②比較対象取引の詳細 など |
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対象法人 | (1)同時文書化対象国外関連取引を行う法人 次のいずれかに該当する法人 ①一の国外関連者との間の前事業年度の取引金額(受払合計)が50億円以上 ②一の国外関連者との間の前事業年度の無形資産取引金額(受払金額)が3億円以上 (2)同時文書化免除国外関連取引を行う法人 次のいずれかに該当する法人 ①一の国外関連者との間の前事業年度の取引金額(受払合計)が50億円未満 ②一の国外関連者との間の前事業年度の無形資産取引金額(受払金額)が3億円未満 |
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提示等期限 | 移転価格の税務調査が行われた場合において、提示又は提出を求められた日から調査官の指定する日まで。 ※同時文書化対象国外関連取引を行う法人は、45日以内の指定する日まで ※同時文書化免除国外関連取引を行う法人は、60日以内の指定する日まで |
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留意点 | 国外関連取引を行った法人は、国外関連取引の合計金額が50億円以下、あるいは無形資産取引の合計金額が3億円以下であっても、調査官からローカルファイルに相当する書類の提示又は提出を求められることがあります。その場合には、同書類を60日以内の調査官の指定する日までに提出する必要があります。 |
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税務当局の要求に対して文書を提示等できなかった場合には、税務当局は、対象会社が営む事業と同種と認める事業を営む他社の営業利益率等を適用して独立企業間価格を算定し、それに基づいて課税処分をすることができます(これを「推定課税」といいます。)。税務当局は、その同業他社がどの会社であるかについては守秘義務があるため明かしませんので、税務当局が課税処分の根拠としたデータが正しいかどうかを検証することができません。こうした課税処分のリスクを避けるためには、事前にローカルファイル等を作成しておくことが不可欠です。
移転価格税制は、日本だけではなく、中国、韓国、タイ、ベトナムなど多くの国でも採用されています。したがって、実際にローカルファイルの作成に当たっては、単に日本の税務当局向けに作成するというだけでは不十分で、海外子会社を含めたグループ全体で整合性を持ったローカルファイル等を作成し、海外の税務当局に対しても提示等できるようにしておく必要があります。