中小企業からグローバル企業まであらゆる経営課題に解決策を

利上げ交渉は銀行を選ぶ場でもある

2024/11/01

 今年に入って、日銀は金融政策を変更し、徐々に金利を引き上げ始めています。金利状況が今後どのように進展するかは明確には見通せませんが、黒田日銀総裁の下におけるゼロ金利時代から「金利ある世界」に移行していくことは間違いなさそうです。

 「金利ある世界」が進めば、銀行の一般企業に対する利上げ交渉が本格化します。利上げ交渉では、銀行からの利上げ要請に対する企業側の対応という視点ばかりが注目されますが、これを契機として逆に、企業が銀行を選別するという側面もあることも見逃せないと思います。

 

銀行の貸出金利引き上げ

 日銀が金融政策を変更し、預金金利が上昇したからといって、それが即企業向け貸出金利の引き上げにつながるわけではありません。銀行にとっての預金金利の上昇は一般商品における仕入れコストの上昇に過ぎず、当然のことながら、銀行は仕入れコストの上昇を販売単価、すなわち貸出金利に転嫁しようとします。しかし、その転嫁がどこまで浸透するかは銀行と企業の交渉にかかっています。

 銀行としては、この利上げ交渉を契機にコストとベネフィットを見比べて、取引先の選別をしようとします。銀行にとってベースになるコストは一般商品では仕入れに該当する預金金利になります。仕入れコストである預金金利は取引先によって変わることはないのですが、貸出において重要なものに取引先に応じて異なる貸倒れリスクに対応するコストがあります。貸出には必ず貸倒れが発生しますから、そのコストを貸出金利に上乗せしておかなければ銀行としては採算割れになってしまいます。貸倒れリスクが高いと考える取引先の金利は高く、リスクが低いと判断する取引先の金利は低く設定します。個々の取引先ごとに、算出したコストと貸出金利を見比べて銀行は貸出の採算性を判断し、採算性の悪い取引先は整理し、いい取引先は残そうとするでしょう。

 これまで、ゼロ金利下において、金利が余りに低く、銀行にとってはコストを賄えない取引先が多く存在していたはずです。「金利ある世界」の登場を契機に銀行は不良採算取引先の収益の改善、すなわち貸出金利の向上を求めていくことになります。

 

企業側の対応

 そこで今度は、銀行の利上げ要請に対する企業の対応が問われます。マネーの価格である金利は、他の一般商品価格と同様に最終的には需要と供給によって決まります。

 その企業の貸出に対する需要が強い、つまり業績が悪く自己資金が不足し、他の銀行からも調達できず、どうしてもその銀行から借りなければならない必要性が高ければ、企業は銀行が提示した金利をそのまま飲むしかありません。

 一方、需要がそれほど強くなければ、つまり自己資金が豊富で、他の銀行からもっと有利な貸出条件の提示を受けていて、いざとなれば当該銀行からの借入金の返済も可能であれば、提示金利の引き下げが可能です。


銀行選別の視点

 このように「金利ある世界」における利上げ交渉は銀行にとって取引先選別の好機となるのは当然ですが、反面、利上げ交渉を受ける企業側も、もし銀行に対峙する余力を持っている企業であれば、銀行選別の機会とすることもできるはずです。自分の企業にふさわしい銀行を見極めようとするとき、以下のような視点がポイントになります。

 先述した貸倒れリスクの見方は全行同一ではありません。無論、ベースとなる財務諸表に基づく定量分析は各銀行で大きく異ならないかもしれません。しかし、企業の将来性、技術力、従業員の勤勉性、経営者の経営能力や信用力といった定性的な見方は各行独自のものがあるはずです。利上げ交渉においてそうしたことを把握できれば有用です。銀行が自分の企業をどのように見ているかということは、銀行選別の重要な判断材料になります。

 次に銀行が持つ能力を評価することも必要です。いうまでもなく、第一に低利で貸出金を提供できる能力は欠かせません。ただ、そこに余り拘泥しすぎるのも考えものです。財務、税務、事業承継等に関するコンサル能力そして銀行の持つ情報提供力を含めた総合力を評価して銀行を選ぶべきでしょう。

 また、これを機会に、これまで銀行有利に設定されていた担保や保証人等についての貸出条件の改訂を求めるといったことも考えてもいいかもしれません。

 利上げ交渉は、銀行側の要求をどこまで受け入れるかという受け身の態度に終始するのではなく、自社の成長のために銀行をどのように役立たせるのかということを見直すいい機会だと前向きに捉えることもできます。

 銀行側もそうした眼で自分たちも見られているのだということを意識して利上げ交渉を行う必要があると思います。

執筆者