「税務トピックスQ&A 2025年3月号」掲載
Q.令和6年度税制改正において、中小企業向け賃上げ促進税制に「繰越税額控除制度」が創設されましたが、その概要について教えて下さい。
A.■制度創設の背景
日本の雇用の7割を中小企業が占める中、赤字等の厳しい業況の中にある中小企業の賃上げを後押しすることを目的として、賃上げを実施した事業年度に控除しきれなかった金額の繰越しを認める制度が新たに設けられました。
従来の税制では、赤字の事業年度に賃上げをしても税額控除を受けることができなかったため、赤字の会社に対しては賃上げを行うインセンティブが働きませんでした。そのような会社にも賃上げを促進するために、本制度が創設されました。
■制度の概要
中小企業向け賃上げ促進税制は、中小企業者等又は青色申告書を提出する常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主が、前年度より給与等支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から控除できる制度です。
繰越税額控除制度は、賃上げを実施した事業年度に控除しきれなかった金額(繰越税額控除限度超過額)の5年間の繰越しを認める制度です。一定の要件を満たす賃上げを実施した事業年度が赤字で法人税が課税されない場合や税額控除額が控除上限(法人税額の20%)を超過する場合に適用できます。これにより、赤字の事業年度では控除対象となる法人税額がないことから税額控除を受けられなかった中小企業が、翌事業年度以降の黒字の事業年度において繰越控除をすることができるようになりました。
繰越税額控除制度の適用は、令和6年4月1日以後開始事業年度から受けることができます。
■適用要件
繰越税額控除制度の適用要件は、次のとおりです。
①繰越税額控除限度超過額が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に「繰越税額控除限度超過額の明細書」の添付があること。
②適用を受けようとする事業年度の確定申告書等に「繰越税額控除制度の適用の対象となる繰越税額控除限度超過額、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細を記載した書類」の添付があること。
③繰り越した額を実際に税額控除する事業年度において、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額より増加していること。
■留意事項
適用要件①の明細書が提出されていない場合、繰越税額控除限度超過額は繰り越されません。修正申告や更正の請求によって後から適用を受けることができないため、確定申告までに適用の可否について検討を行い、適用を受ける場合には明細書の添付を失念しないよう注意が必要です。また、翌事業年度以降に繰り越す場合には、繰越税額控除制度の適用を受けない事業年度であっても明細書の添付が必要です。
そして、適用要件③では、繰越控除をする事業年度でも賃上げを行うことが求められている点にご注意ください。
■おわりに
3月決算法人であれば、令和7年3月期以降に発生した繰越税額控除限度超過額を翌事業年度以降に繰り越すことが可能になります。当期が赤字であっても給与等支給額を集計しなければならない場合があるため、税額控除のメリットを受けられる反面、経理事務作業においては負担が増加することが考えられます。決算の際に慌てて対応することがないよう、早めに必要な情報を整理しておきましょう。