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良いインフレは到来するのだろうか?

2025/05/01

 政府・日銀はいまだに「デフレ脱却宣言」をしていませんが、現在の物価動向は明らかにインフレに転換しています。総務省の発表によると、2025年2月の総合指数は前年同月比3.7%の上昇になっています。ただ、コメをはじめとする身近な食料品の高騰が著しく、体感の物価上昇率は政府発表数値よりかなり強烈で、庶民生活は確実に蝕まれています。果たして、アベノミクス開始当初言われていた、経済を好転させる「良いインフレ」は到来するのでしょうか。

 

結果を出せなかった異次元の金融緩和

 かつて、アベノミクスを主導していた人々は、「日本経済低迷の最大の要因はデフレであり、デフレからインフレに転換さえできれば日本経済は回復する」と主張していました。量的金融緩和で物価をコントロールできると主張する人々を「リフレ派」と称しますが、日銀はリフレ派の理論に則り、2%インフレを目標に異次元の金融緩和を強力に推し進めてきました。

 当初、当時の日銀の黒田総裁は「2年で結果を出す」と豪語していたのですが、10年の総裁在任中にインフレ目標を達成することはできませんでした。現在はインフレになっていますが、このインフレは日銀の量的金融緩和政策の結果ではなく、パンデミックや戦争等による海外発の物価上昇が主因とされています。

 リフレ派の理論には、次の2点で思い違いが生じたことになります。一つは日銀の量的金融緩和政策で物価を自由にコントロールできないということ、そしてもう一つはインフレになったからといって経済状況は改善しないということです。

 

デフレもインフレも困る

 これに対し、リフレ派の人々は次のように反論します。そもそもインフレには良いインフレと悪いインフレの2種類がある。良いインフレとは需要が物価を引き上げるデマンドプル型で、このインフレになれば、物価と賃金が好循環に上昇し、経済は活況になる。一方、悪いインフレはコストが物価を押し上げるコストプッシュ型で、このインフレだと経済は好転しない。だから、日銀の金融政策でデマンドプル型インフレを目指すのだ、と。

 しかし、物価と賃金が好循環に上昇するデマンドプル型インフレなど本当に起こせるのでしょうか。リフレ派が想定するのは高度経済成長期のインフレでしょうが、それ以来、半世紀にわたり、デマンドプル型インフレは発生していません。アベノミクスであれだけ未曾有の金融緩和を行いながら起こせなかったのですから、デマンドプル型インフレなどもはや到来しないことが判明したと考えた方がいいのではないかと私は思います。とすると、インフレに良いインフレはなくなり、悪いインフレのみ残ることになります。

 一方、デフレには元々良いデフレはなく、悪いデフレしかありません。デフレでは、物価が継続的に下落し、先に行くほどモノの値段が安くなるのですから、現在の消費者の購買意欲が減退し、経済は活性化しません。そして、インフレに悪いインフレしかないとすれば、インフレでは物価が継続的に上昇し、消費者の購買力が物価上昇に追いつかず、やはり経済に悪影響を与えます。つまり、物価は継続的に下落するデフレも、上昇するインフレも好ましくなく、安定的に推移するのが望ましいのです。

 

原因と結果の混同

 そもそも、リフレ派は経済動向と物価について原因と結果を取り違えている、という言い方もできます。「インフレだから景気がいい」のではなく、「景気がいいから結果的にインフレになった」と考えるべきではないかということです。物価を経済低迷の原因と捉えるから、無謀な金融政策に頼ろうとしたのですが、物価は経済状況の結果だとすれば、産業政策、地域政策、人口政策などの日本経済そのものの構造改革が必要になるはずです。経済の構造改革は既得権益の壁が厚く、それを取り崩すのは容易ではありません。それに比べれば、日銀の量的緩和政策は実行しやすいこともあり、金融政策に頼りすぎたという側面もあるのかもしれません。

 アベノミクスでは「デフレ退治」を大命題に掲げたため、金融政策が経済政策の主役に祭り上げられた感があります。しかし、金融政策が経済全体を牽引するというのは金融政策の実力を過信しています。良いインフレで経済を立て直すなどという幻想は捨て、金融政策は物価が大きく変動しないように、金融市場を円滑に運営する役割に徹するべきだと思います。

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