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あがたグローバル社会保険労務士法人船井総研 あがたFAS

海外子会社に対する役務提供

2025/05/12

「税務トピックスQ&A 2025年5月号」掲載


Q.当社は、海外子会社S社の事業効率を向上させるため、S社から業務上の相談等があった場合に即時に対応できる社内の支援体制を整えています。ところが、当社の税務調査において、移転価格税制の観点から、これらの業務の適正な対価を算定して、S社から回収すべきと指摘されました。どういう点が問題なのでしょうか?


A.重点課題と位置付けられる国際課税

 国税庁は、2016年に「国際戦略トータルプラン」を公表し、国際課税への取組みを強化する姿勢を打ち出しました。さらに、東京国税局調査部においては、2020年7月以降、国際セクションの組織改編が行われ、国際調査管理課、新国際調査課、事前確認審査課それぞれの所掌事務が改廃されました。調査部全体でも執行体制が見直され、移転価格調査と一般調査を一体的に運営する体制となりました。他局でも、同様の動きがあります。こうしたことから、大企業のみならず中堅企業に対する一般調査においても、海外子会社との移転価格税制対象取引に関する税務調査が増加しているようです。

 とりわけ、企業グループ内役務提供取引(Intra-Group Service。以下「IGS」)に係る対価を回収しておらず、その対価相当額を国外関連者に対する寄附金として所得金額に加算するよう指摘されるケースが目立ってきています。


IGSに係る対価の授受の判断基準

 どのような活動がIGSに該当するかというと、海外子会社に対して行う経営、技術、財務や営業上の活動などが該当します。なお、実際に目に見える活動を行っていなくても、海外子会社の要請によりいつでも活動できるように必要な人材や設備等を利用可能な状態で維持している場合も含まれます。ただし、例えば貴社が連結財務諸表を作成するために必要な海外子会社の月次財務データを収集する活動のように株主として行う活動や重複活動は、IGSには該当しません。

 IGSについては、受益者負担が原則です。対価を回収すべきかどうかについては、その取引が海外子会社にとって経済的又は商業的価値を有するかどうかによって判断します。具体的には、貴社がその活動を行わなかったとした場合に、海外子会社が自らその活動と同じ活動を行う必要があると認められるかどうか、あるいは、もし貴社や海外子会社と関係がない第三者から同様の活動を受けた場合に対価を支払うかどうかによって判断します。


対価の算定方法

 IGSが海外子会社に対する支援的な性質で、貴社グループの中核的事業活動に直接関連しないことその他一定の要件を満たす場合には、IGSの対価は、役務提供に要した費用の額に一定の利益を上乗せした価格で良いこととされています。具体的には、役務提供に係る総原価の額を従事者の従事割合、資産の使用割合その他の合理的な方法により役務提供を受けた海外子会社に配分した金額に、その金額の5%相当額を加算した金額とされます。なお、総原価の額には、原則として、役務提供に関連する直接費の額だけではなく、合理的な配賦基準によって計算された担当部門及び補助部門における一般管理費等の間接費の額も含まれる点に留意が必要です。


意識の変革が必要

 親会社は子会社の面倒を見るのが当然だという現場の意見をよく聞きます。IGSについても当てはまりません。あくまでも、各会社は独立した営利組織として活動しているわけですから、海外子会社といえども、経済的価値のある役務提供をした場合には、その対価を得なければならないという意識を持つことが必要です。

執筆者

多賀谷 博康Hiroyasu Tagaya

税理士・米国公認会計士(inactive)