東京・長野・金沢を結ぶエリアを中心に、税務・会計・人事・労務・M&Aをトータルサポート

あがたグローバル社会保険労務士法人船井総研 あがたFAS

需要喚起型経済政策の限界

2025/06/03

 今夏の参院選を見据え、消費税を中心とした減税論が盛り上がっています。コメを筆頭に物価上昇は激しく、庶民生活は困窮していますから、食品を中心とした消費税減税が要望されるのは理解できます。確かに、消費税減税を行えば、国民生活は一息つけるでしょうが、だからといって、その先の日本経済活性化の展望が開かれるわけではありません。減税論者の中には、減税をすれば国内消費が盛り上がるから、経済は活性化するという主張をする人もいますが、そうした需要喚起型経済成長論には何度も裏切られてきました。

 経済の長期低落傾向に歯止めがかからない我が国で、経済政策論議が減税のような需要側(デマンドサイド)ばかりに集中するのは疑問であり、供給側(サプライサイド)の経済政策にもっと注目すべきだと思います。

 

慢性化した消費活性化政策

 近年、デフレからインフレへと日本の経済状況は大きく変わりましたが、ここ十数年の間の政府の経済政策はある意味一貫していました。それは財政赤字を拡大し、消費刺激のための需要喚起型政策を取り続けてきたことです。

 アベノミクスにおいては、デフレ下では先に行くほど価格が下がるから、現在消費は先延ばしされ、盛り上がらない。インフレに転換すれば、消費は活発化するはずだからという理由で、拡張的な財政政策を採用しました。そして、今度はインフレになると、給与上昇が物価上昇に追いつかず、実質所得が減少するからという理由で減税を求め、財政の拡大は続きます。振り返れば、バブル崩壊以後、経済成長のためには消費拡大が必要だという理由で国債発行を財源に、財政を拡大し続けてきました。その結果がどうなったか見てみましょう。

 1990年の政府総債務は291兆円、GDPは461兆円、GDPに対する政府総債務の比率は63%でした。その後、経済成長のためと称して国債発行を続けてきた結果、2023年の政府総債務は1420兆円、GDPは591兆円、GDP対比は240%にまで膨張しました。これは世界でもダントツの水準です。この間、政府総債務は4.9倍になりましたが、GDPの増加率は28.1%にすぎません。年率換算にすれば、1%に満たないのです。

 消費を喚起し経済を成長させようとして財政赤字を拡大し続けてきたのですが、日本経済は成長せず、債務だけが着実に積み重ねられてきたのです。日本経済の低迷は人口減少や産業構造の硬直化などの構造的問題にあり、国債発行を財源としたバラマキ型減税政策で消費喚起をすれば何とかなるといったレベルではないということはこれまでの歴史が証明しているといえます。

 

サプライサイドが重要

 デマンドサイドに働きかける需要喚起型経済政策の限界は明らかであり、産業政策、地域振興、人口減少対策等のサプライサイドの活性化に目を向けるべきだと思います。経済政策がサプライサイドではなく、デマンドサイドに偏りがちになるのは、デマンドサイドの方が、処方箋が簡単で同意を得やすいからです。というのは、デマンドサイドは最終的にはとにかくカネをばらまけばいいのですが、サプライサイドは、産業政策でいえば、育成すべき産業を明確にし、そのためにどうした政策を打つのかといった確固とした方向付けが必要になるからです。国の産業のグランドデザインを描くことは難しいと同時に、国民の総意を取り付けるのも容易ではありません。

 ただ、現下のトランプ関税やコメ価格高騰あるいは経済安全保障への対応を見ていると、産業政策を場当たり的、個別的に対応することの限界を感じざるを得ません。農業を含めた産業全体に対して国家としてどう向き合うかが問われています。産業政策に加え、人口減少や地域振興にも説得力のある対策を打ち出せれば、国民は将来展望が開け、内需の活性化につながるでしょう。貴重な財源をその場しのぎの需要喚起型バラマキ政策に浪費するのではなく、サプライサイドを強化する方向に使って欲しいと私は思います。

 とはいえ、国民の実力に即した、時代に即した的確なサプライサイドの政策を策定することは簡単ではありません。時代に適さない、見当外れのサプライサイドに投資すれば、支出した金額が完全に無駄になってしまいます。そうなると、「そんなことにカネを使う位なら減税しろ」という声が多くなるのも頷けます。現在の減税要求の高まりはそうした政治家や官僚に対する不信感の表れだということもできます。

 サプライサイド政策には時代を見極める確かな目が必要となることを忘れてはなりません。

 

執筆者