■制度改正の背景
所得税には、基礎控除の額が定額であることにより、物価が上昇すると実質的な税負担が増えるという課題があります。上昇傾向にある現在の物価動向を踏まえ、基礎控除の額が引き上げられることになりました。そして、物価上昇への対応とともに、就業調整にも対応するとの観点から、給与所得控除の最低保障額の引上げも行われます。特に大学生のアルバイトの就業調整に対応するために、大学生年代の親向けの特別控除が新たに創設されました。
■制度改正の概要
令和7年度税制改正によって、以下のとおり所得税の基礎控除の見直し等が行われました。
(1) 基礎控除の見直し
合計所得金額2,350万円以下の場合の基礎控除額が10万円引き上げられ、58万円になりました。
その上で、基礎控除の上乗せ特例が創設され、所得に応じて控除額が最高37万円加算されます。合計所得金額が132万円以下では、基礎控除の上乗せを恒久的措置として行うこととされ、58万円に37万円を加算した95万円が基礎控除額になります。合計所得金額が132万円超655万円以下では、令和7年及び令和8年の時限措置として、所得階層ごとに定められた額(合計所得金額が132万円超336万円以下は30万円、336万円超489万円以下は10万円、489万円超655万円以下は5万円)を58万円に加算した金額が基礎控除額になります。
(2) 給与所得控除の見直し
給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられました。給与収入が190万円以下では、給与所得控除額が65万円になります。給与収入が190万円超では、給与所得控除額に改正はありません。
(3) 扶養親族等の所得要件の改正
基礎控除額が引き上げられたことに伴い、扶養親族及び同一生計配偶者の合計所得金額要件が48万円以下から58万円以下に引き上げられます。そのほか、ひとり親の生計を一にする子の総所得金額等の要件は48万円以下から58万円以下に、勤労学生の合計所得金額要件は75万円以下から85万円以下にそれぞれ引き上げられます。
(4) 特定親族特別控除の創設
居住者が特定親族を有する場合には、その特定親族の合計所得金額に応じた額の控除を受けられる特定親族特別控除が創設されました。
特定親族とは、居住者と生計を一にする19歳以上23歳未満の親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます。)で合計所得金額が58万円超123万円以下の人をいいます。
特定親族特別控除では、特定親族の合計所得金額が85万円(給与収入150万円)以下までは、特定扶養控除63万円と同額の所得控除を受けられ、85万円を超えた場合でも、控除額が段階的に逓減する仕組みになっています。
■留意事項
この改正は、原則として、令和7年12月1日に施行され、令和7年分以後の所得税について適用されます。
このため、令和7年11月までの源泉徴収事務に変更は生じませんが、令和7年12月に行う年末調整など、令和7年12月以後の源泉徴収事務に変更が生じます。
■おわりに
特定親族特別控除が創設されたことで、大学生年代のアルバイト等の方は、親等が所得控除を受けられる範囲内でより多くの収入を得ることができるようになりました。就業調整に対応していた会社にとっては、年末の人材確保の改善も見込まれます。
他方、年末調整事務においては、特定親族の合計所得金額が85万円超の場合、所得に応じて控除額が変わるため、正確な所得の把握が求められるようになります。大学生の子等の給与収入を集計しておくよう指導するなど、年末調整に向けて、早めに対策をしておきましょう。