移転価格税制の基本知識
移転価格課税とは?課税されるとどうなる?
海外子会社との取引において、移転価格課税が指摘されると各国で二重課税に陥る可能性があります。
もし、二重課税になってしまった場合、
以下のような弊害が生じます。
予期しない課税により利益が圧迫される
二重課税の解消のために多くの費用と時間がかかる
課税された事実が公表され経営が立ち行かなくなる
これらのようにひとたび移転価格課税を受けてしまうと大きなリスクが伴います。
そのため、事前に法的安全性と透明性を高める防衛策を講じることが重要です。
移転価格課税を受けないための対策
APA:移転価格の事前確認
国外関連取引に係る独立企業間価格の算定方法等について、法人自らの申出に基づいて、税務当局から事前に確認を得る制度です。
確認を得ることができれば、課税されるリスクはなくなります。APAの申出を通じて、法人が適切と考える算定方法等を税務当局に説明できますので、自らの事業戦略とも整合する可能性が高まります。
税務当局から確認を得るためには、多くの時間と労力を必要とします。多くの時間と労力をかけたとしても、必ず確認を得ることができるとは限りません。確認を得られない場合には、法人が自主的に提出した資料が事後の税務調査で利用され、却って課税を受けるリスクが高まる場合もないとは言えません。
移転価格の文書化
法人が、国外関連取引に係る取引条件等が独立企業の原則に拠っていることを説明する文書を事前に準備しておき、調査の際に適時に説明できるようにしておく取組みです。
APAに比して、費用及び労力は相対的に低くて済みます。 事前に準備した文書を通じて、法人が適切と考える適用方法などを税務当局に説明でき、税務当局のペースで税務調査が展開することを防止できます。
事前に文書化していたとしても、事後の税務調査において文書化が不適切とみなされて移転価格課税されるリスクがあります。
APAの申出のためには、文書化と同様の分析をする必要があります。税務当局から確認を事前に得ていない文書化では完全に移転価格課税リスクをなくすことはできません。しかしながら、適切な文書化をしておけば、文書化した分析を否認されるリスクを減らすことができます。
APAあるいは文書化いずれの対策を講じるにしろ、適切な分析を行うことが必要で、その点では両者に違いはありません。事実と状況に拠りますが、APAに比して費用と労力が相対的に少なく、税務当局のペースで税務調査が展開することを防止できる文書化をお薦めします。
移転価格の文書化とは?
移転価格文書化に影響を与える
国税当局における調査体制の変更
東京国税局においても2020年7月以降、移転価格調査を含めた海外取引等に対する税務調査を総合的に実施する部門を設置しました。
移転価格調査と一般調査を一体的に運営する体制となり、従来の分断されていた税務調査体制から、
移転価格を重点的に調査するしくみへと体制変更が加えられています。
税務調査時に、ローカルファイルに相当する文書の提示等を、一般調査でも求められることがあります。

移転価格文書化のポイントQ&A
移転価格税制に関する税務調査について効果的な対策は何ですか。
調査官の要求に応じて、適時に提出できるローカルファイルあるいはローカルファイルに相当する文書を事前に作成しておくことが効果的な対策です。
ローカルファイルあるいはローカルファイルに相当する文書を事前に作成しておくというのは、何のために行うのですか。
法人が、海外子会社等の国外関連取引に係る取引条件等が独立企業の原則に拠っていることを説明する文書を事前に準備しておき、移転価格調査があった際には、適時にそれを説明できるように準備しておくためです。移転価格調査の連絡を受けてから、国外関連取引に係る取引条件等が独立企業の原則に拠っていることを説明する文書を準備するのではなく、事前にそれを準備しておき、調査時には適時にそれを調査官に提示等して説明するというものです。そうすれば、法人のペースで移転価格調査を進める度合いが高まります。
同時文書化対象国外関連取引を行う法人は、法人税申告書の提出期限までにローカルファイルを作成しておく義務があります。
ローカルファイルあるいはローカルファイルに相当する文書とは何ですか。
ローカルファイルは、OECDにおいて議論されてきたBEPS1.0の行動計画13「多国籍企業情報の文書化」において、共通文書として用意された文書の一つで、独立企業間価格を算定するために必要な移転価格算定手法やその適用方法などを説明する文書です。日本でも取り入れられていて、税法では、ローカルファイルは「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類」と、ローカルファイルに相当する文書は「独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類」と規定されています。
国外関連取引の規模が小さい法人であっても、ローカルファイルを作成しておく必要がありますか。
子会社などの国外関連者との間で国外関連取引を行った法人で、前事業年度における国外関連取引が50億円未満あるいは無形資産取引が3億円未満の場合には、法人税の確定申告書の提出期限までに、ローカルファイルを作成しておく義務は免除されています。国外関連取引で前事業年度における国外関連取引の合計金額が50億円未満の取引については、日本の税法では「同時文書化免除国外関連取引」と呼んでいます。
一方、子会社などの国外関連者との間で国外関連取引を行った法人で、前事業年度における国外関連取引の合計金額が50億円以上か、あるいは国外関連者との間で行った無形資産取引の合計金額が3億円以上の場合には、法人税の確定申告書の提出期限までに、ローカルファイルを作成しておく義務があります。国外関連取引で前事業年度における国外関連取引の合計金額が50億円以上などの取引については、日本の税法では「同時文書化対象国外関連取引」と呼んでいます。
前事業年度における国外関連者との棚卸取引が数億円しかない場合、ローカルファイルを確定申告の提出期限までに作成しておく必要はないということでしょうか。
安心してはいけません。前事業年度における国外関連取引が数億円しかない同時文書化免除国外関連取引を行う法人については、調査官はローカルファイルに相当する文書を調査官が指定する60日以内の日までに提示又は提出するよう要求することができます。同時文書化対象国外関連取引を行う法人と同時文書化免除関連取引を行う法人とでは、提示又は提出する期限が違っていて、同時文書化対象国外関連取引を行う法人に対しては最長で45日の期限でしたが、同時文書化免除国外関連取引を行う法人に対しては最長で60日の期限になるということです。いずれについても、指定された期限までにローカルファイル又はローカルファイルに相当する文書を調査官に提示又は提出できないときには、推定課税される虞がある点については同じです。国外関連取引を行う法人は、取引規模の大小にかかわらず、移転価格税制の対象となります。ローカルファイル又はローカルファイルに相当する文書を事前に作成しておく意義は、それらを期限までに作成する義務があるから行うのではなく、関連者間取引に係る取引条件等が独立企業の原則に拠っていることを全てのステークホルダー(売上先仕入先その他事業に関係のある者、株主、従業員など)に対して明らかにすることで、ガバナンス重視の経営姿勢を示すことができます。
国外関連取引が数億円しかない規模の法人でも、移転価格調査の対象とされるのですか。移転価格調査の対象とされたとしても、調査の際に、ローカルファイルに相当する文書を提出するよう、調査官から依頼されることはあるのですか。
あります。法人が子会社等の国外関連者と国外関連取引を行う場合には、大規模法人であろうが、中小法人であろうが、国外関連取引に係る取引条件等が独立企業の原則に拠っていない場合には、所得増額調整されます。国税当局による調査体制が変更され、移転価格調査とそれ以外の一般調査が一体的に運営される体制に変更されています。そうなると、却って、移転価格調査の項目について質問される度合いは、今まで以上に増加するかもしれません。
国税庁は、善良な納税者が課税の不公平感を持つことがないよう、納税義務が適正に果たされていないと認められる納税者に対し、的確な調査を実施することによって誤りを確実に是正する活動により、内国税の適正かつ公平な賦課・徴収の実現を図っています。
調査官が要求したローカルファイルあるいはローカルファイルに相当する文書を指定期日までに提示又は提出できない場合には、推定課税されることは理解しました。推定課税とはどのような課税ですか。
同時文書化対象国外関連取引を行う法人も、同時文書化免除国外関連取引を行う法人も、調査官が指定する日までにローカルファイルあるいはローカルファイルに相当する文書を提示又は提出できないときは、国税当局がそれら取引に係る事業と国税当局が同種と認める事業を営む法人で事業規模や事業内容等が類似する法人の売上総利益又は営業利益を基礎とした移転価格算定手法を適用して計算する独立企業間価格を推定して、課税できるというものです。
調査官は、調査を実施する過程で知ることのできた情報を漏らすことはできませんから、国税当局が推定課税を適用するために行った、比較対象法人選定するために用いた条件、当該比較対象取引の内容、差異の調整方法等については、法人に対しては全てが開示されるとは限りません。
以下質問への回答は移転価格税制Q&A資料ダウンロードにてご覧いただけます。
調査官が指定する日までに、ローカルファイル、あるいはローカルファイルに相当する文書を提示又は提出すれば、推計課税は受けないということですか。
調査官が提示又は提出を要求するローカルファイル、あるいはローカルファイルに相当する文書とはどのような文書なのですか。
移転価格調査において、調査官が確認するポイントを教えてください。
自社でローカルファイルについて文書化してみようと考えています。参考例はありますか。
日本の調査官が確認するポイントに留意して作成したローカルファイルをそのまま英訳等して、国外関連者が準備するローカルファイルにしても問題ないでしょうか。
ローカルファイル、あるいはローカルファイルに相当する文書を準備しておくことが、移転価格調査の対策になることは分かりました。ですが、当社は国外関連取引が数億円程度しかありません。それを考えると、相当な内容量の文書化をしようとは思いませんがどうすればよいでしょうか?
移転価格の文書化をするためには、何から始めればよいでしょうか。
移転価格課税されて、二重課税に陥っても、相互協議で合意してもらえれば、二重課税は解消されると聞いています。事前に文書化しておく必要はあるのでしょうか。
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