「事業性資産担保の危うさ」
金融庁は銀行による中小企業の事業支援を促す融資改革の議論を始めた、との報道がありました(2020年11月5日付日本経済新聞)。これまでの不動産担保や経営者の個人保証に偏った融資慣行を見直し、企業の技術や顧客基盤など無形資産などを一括で担保にできる制度作りを目指す、ということです。こうした制度改革により、銀行が企業の将来性を評価して資金を出しやすくすることで、経済の再生を後押しすることを狙いとしています。
従来の銀行融資の主たる担保は、土地や有価証券など目に見える有形資産でした。有形資産を保有するのは昔からの老舗企業が多くなりますから、有形の資産はないが、技術力はある新興企業は融資を受けにくくなります。この点が旧来の金融の問題点として、かねて指摘されており、そうした点を改善しようというのが今回の議論の出発点です。
このように聞くと、企業が行っている事業に付随する無形資産を担保にした融資は金融の新境地を切り開く、素晴らしい施策のように思えますが、実現はそう簡単ではないでしょう。その理由は巷間言われているように、銀行員が事業性資産の評価を行うことの難しさや対抗要件の具備といった法律的問題もあるでしょう。ただ、そうした評価や法律的問題は難しくはあっても、突き詰めればテクニカルな問題であり、事業性資産担保が当該企業、地域、あるいは銀行のためになるなら、関係者は努力して、その困難を克服すべきです。私がここで懸念するのは、そうした問題とは別に、担保に関する以下のような本質的矛盾の存在にあります。