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「良いインフレと悪いインフレ」

日銀はデフレから脱却し、インフレにすることを大きな目標としています。ただ、どうした形であっても、インフレにさえなればいいかというと、そうではありません。というのは、インフレにも「良いインフレ」と「悪いインフレ」があるからです。

デマンドプルとコストプッシュ
良いインフレとは経済全体が活性化して、需要が増大することにより、品物が不足気味になり、物価が上昇するという経路をたどるインフレです。これをデマンドプル型インフレと呼びます。一方、悪いインフレとは製品を作る際の費用が増加して、生産費用の増大を賄うために物価が上昇するインフレです。これをコストプッシュ型インフレと呼びます。
デマンドプル型は需要側が物価を引っ張り上げるのに対し、コストプッシュ型は供給側が物価を押し上げる形になります。デマンドプル型は賃金も上がり、経済が好循環の時に生じるインフレですが、コストプッシュ型だと物価だけが上がり、国民生活は苦しくなります。日銀が目指しているインフレは言うまでもなくデマンドプル型です。

リフレ派と反リフレ派
日本は長い間、物価が下落するデフレに苦しんでおり、経済活性化のネックはデフレにあった、という認識はほぼ共有されています。ただ、そのデフレからの脱却の手法については意見の相違があります。日銀の金融政策には限界があるとする「反リフレ派」と、依然として日銀の金融政策の万能性を信じる「リフレ派」です。
反リフレ派は日銀の金融政策はもっぱら金利政策なのだから、ゼロ金利になった段階で、金融緩和の有効性は大きく減退すると主張します。一方、リフレ派は、物価は極めて貨幣的現象なのだから、物価の騰落は貨幣を統括する日銀次第でどうにでもなる。ゼロ金利になっても、貨幣供給量を増やし、日銀のインフレに対する強い決意を示すことにより、人々の期待インフレ率を高めることができ、期待インフレ率が高まれば、消費意欲の拡大を促し、実際にインフレを起こすことができる、と考えます。

異次元の金融緩和の効果
日銀は2年前の黒田総裁の就任以来、明確にリフレ派に転じ、「異次元の金融緩和」に敢然と踏み出し、インフレに対する「強い決意」を明確にしました。
さて、2年経過し、インフレの状況はどうなったかといえば、消費税分を除けば、日銀が目標とした2%のインフレは達成できていません。日銀は期限を延ばして、達成しようとしていますが、果たして日銀の思惑通りになるのか予断を許しません。
日銀の異次元の金融緩和で株価は上がり、経済マインドを好転させる効果はあったのですが、これまでのところ、目標であるデマンドプル型のインフレには至っていません。その証拠に、現在の物価状況の説明はもっぱらコスト面からだけ行われています。物価が上がらない主因とされるのは原油価格の値下がりですし、円安による輸入製品価格の上昇もコスト要因です。日銀の金融緩和により、直接的に国民の期待インフレ率を高めているとは言えません。

二つの大きな山
日銀はコストプッシュでも、とにかくインフレになればいいと考えているのではないかと思います。ただ、現在の状況では、コストプッシュ型であるにしろ、マイルドなインフレを起こすことは容易ではなさそうです。もしできたとして、それだけで終わっては意味がありません。コストプッシュ型インフレでは、生活費が上昇し、庶民の生活は苦しくなるだけだからです。コストプッシュ型がデマンドプル型のインフレに転化できるかが次の課題になります。最初はコストプッシュ型であっても、それが全般的な賃金上昇に結びつき、国民の心理をインフレマインドに転換させ、好循環のデマンドプル型に発展させられるのかが問われます。今までの状況を見れば、消費マインドは落ち着き、世界的にも物価は低落傾向にあり、その可能性は高くないだろうと、私は思います。
日銀はコストプッシュ型インフレを起こすこと、そしてさらに、コストプッシュ型インフレをデマンドプル型インフレに転化することの二つの大きな山を越えなければなりません。それは二つとも簡単な山ではありません。
インフレマインドの醸成には通貨当局の気合が重要だと言ってきた日銀が、インフレ目標の旗を下すことは簡単にはできないでしょうが、日銀がインフレを制御できるかどうかという点について、難しい局面に差し掛かっていることは事実です。

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