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「余剰資金の使い道から考える会社観の違い」

 法人企業統計によると、2017年度の企業(金融・保険業を除く全産業)の利益剰余金、いわゆる内部留保は446兆円で、内部留保を 中核にした自己資本比率は41.7%と過去最高に積み上がっています。内部留保は貸借対照表の貸方の話ですが、それに対応する借方には現金が222兆円と、これもまた過去最高の水準にあります。
 資金の用途として最も望ましいのは、将来の成長のための設備投資です。しかし、少子高齢化で人口減少が進み、潜在成長率が下がっている我が国で、企業の成長に資する投資がそう簡単に見つかるものではありません。投資機会がないまま、利益が上がり続ければ、内部留保と現金が積み上がります。その結果、常に株主価値の上昇を求められる上場企業では、余剰資金の使い方が大きな課題となります。
 欧米であれば、答えは明快で、配当や自社株買いなどの株主還元に使うべきということになります。しかし、日本ではそのように簡単に割り切ることできません。そこには欧米とは異なる会社観の存在が背景にあるように思います。

会社は誰のものか
 会社観とは突き詰めれば、「会社は誰のものか」ということに行き着きます。答えは、株主と従業員の二つに大きく分けられます。
 株式会社論的に言えば、株式会社は株主が自らの利益をあげるために作った組織です。従業員はそのために雇われているに過ぎませんから、従業員が前面に出てくることはありません。会社の余剰資金を再投資して会社が成長し、株主価値が増加するなら、再投資することに株主に異存はありません。一方、余剰資金を会社内で使い切れなくなれば、株主に返還するのが筋です。配当や自社株買いを行えば、自己資本が減少しますから、株主が最も重視するROE(自己資本利益率=当期純利益÷自己資本)が増加します。自己資本比率が高く、現金預金が豊富な会社がたどりつく当然な選択になります。
 しかし、我が国では会社を株主のものと単純には割り切れません。会社は確かに株主が作った組織ですが、その後の運営は役員や従業員が主体となります。会社が上げた利益は、従業員が力を合わせ皆で稼いだものと考えますから、株主というより従業員のために使うべきではないかという思想も捨てきれません。

会社がセーフティネット
 欧米的には、株式会社はある特定の事業を行い、利益をあげることを目的に作ったものですから、その事業が時流に合わなくなれば、新陳代謝があるのはやむを得ないと考えます。従業員もそれに応じて職場を変わるものとして、雇用の流動化に慣れています。とすれば、会社の存続のために自己資本比率を闇雲に高くする必要はなく、余剰資金の株主分配も当然と考えます。
 しかし、日本の従業員にとっては、会社は単なる給与をもらう場所というに止まらず、精神的なよりどころといった側面も併せ持ちます。また、雇用の流動化も進んでおらず、普通の従業員は会社を変えることは相当な苦痛を伴いますから、どんな形であれ、会社にはできるだけ存続してもらいたいと思っています。社会のセーフティネットの一部を会社が担っているという見方もできます。とすれば、会社存続の社会的要請が強くなり、いたずらな株主還元の増加に慎重にならざるを得ません。
 大手上場企業ではグローバルスタンダードで株主還元が重視される傾向にありますが、その考え方が一般的な上場企業にまでに広がっているとはいえません。今後、成熟経済に入り、再投資は益々難しくなりますから、余剰資金の使い方は上場企業にとり大きな課題であり続けると思います。


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