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「役員と従業員の賃金格差拡大」

 上場企業の役員報酬と従業員の賃金格差が拡大しています(2020年1月25日付日本経済新聞)。2018年度の有価証券報告書を分析したところによれば、賃金格差は4.2倍となり、前年度比0.1ポイント増加し、4年連続の拡大となったそうです。
 消費低迷の主因は労働者の賃金が伸びないことにあると言われている中で、賃金格差が拡大しているのですから、役員報酬は増大していることになります。なぜ、一般従業員の賃金は伸びないのに、上場企業の役員報酬だけは増加するのか、何か釈然としないものが残ります。

業績に連動しない賃金と連動する報酬
 最近よく報道されているように、従業員の賃金はほとんど上昇していません。この間、企業業績は好調で内部留保も史上最高に積み上がっているにも関わらず、それが従業員の賃金上昇に反映されていないのです。なぜ、企業業績が従業員の賃金に結び付かないのかについて、明快な答えはなく、現代日本経済の大きな論争テーマとなっているほどです。一方、上場企業の役員報酬は上昇しています。その理由は役員報酬に占める株式報酬や業績連動型賞与の比重が増加していることにあります。この間、企業業績は悪くありませんでした。また、株価も企業業績に加え、日銀やGPIF(年金積立金管理運用法人)の買い支えもあり、高値を維持していました。したがって、役員報酬は増えたのです。
 つまり、従業員の賃金は固定的にもかかわらず、上場企業の役員報酬は会社の業績や株価によりヴィヴィッドに反応し、増加しました。その結果、上場企業の役員と従業員の賃金格差が拡大しているというわけです。

ゼロサム社会
 役員報酬と従業員賃金がともに伸びるのが望ましい姿であることはいうまでもありません。しかし、両者が共に増えるには経済全体のパイが拡大しなければなりません。日本経済は人口が減少する成熟社会に入り、GDP(国内総生産)の伸び率は極めて低調で、ゼロサム社会に入ってしまったと考えられます。
 成長のない経済において事業活動を行う企業の売上は伸びません(個別企業では当然デコボコがありますが)。そんな中で利益を伸ばすには2つの方法が考えられます。一つは海外業績の取り込みであり、もう一つは経費の削減です。利益伸長が海外業績の取り込みによるものであるならいいのですが、経費削減によるものであれば、ゼロサム社会では、どこかにしわ寄せが生じてしまいます。

社会の分断が進む
 業績や株価に連動して経済全体のパイが拡大するなら、業績連動型役員報酬は非難されるべきものではありません。従業員の賃金が上昇し、生産性が上昇し、売上が増加し、利益が増え、株価が上昇し、役員報酬の増加に結び付くというのが、業績連動型報酬が描く理想的な社会の姿です。しかし、今の業績連動型報酬は従業員の賃金を削り(あるいは伸ばさず)、利益と株価を吊り上げ、役員報酬を増やしている可能性があると思われます。
 私は、経済全体が低迷状況にある中で、役員報酬が業績連動型の色彩を強めれば、役員と従業員の賃金格差が拡大して、社会の分断が進むのではないかということを、強く危惧しています。


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