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「乖離が拡がる会計と税務」

 今、金融界で、「フォワードルッキング引当金」が注目されています(2020年8月12日付け日本経済新聞)。フォワードルッキング引当金とは、経済の将来予測に基づいて、債務者の返済能力を見積もり、予防的に貸倒引当金を計上する手法です。銀行には貸倒引当金の対象資産である貸出金が膨大にありますから、貸倒引当金の設定の仕方次第で損益が大きく左右されることになります。
 これまでの貸倒引当金の設定は、その客観性の高さから、債務者の決算状況などの過去の実績を中心に判断してきました。過去実績もある程度考慮するのでしょうが、それを、将来予測を軸に据えるというのは、かなり思い切った変革です。フォワードルッキング引当金は会計の基本思想を体現するものといえますが、会計がこの方向性を鮮明にすることで、会計と税務の乖離が拡がることに注意する必要があります。

将来予測を重視する会計
 こうした将来予測に大きく依存する会計処理は、容易に想像されるような以下のような批判を呼び起こします。
 まず、将来予測は「当たるも八卦、当たらぬも八卦」の世界であり、その正確性を誰も担保できません。また、予測を行うのは人間ですから、主観的判断に基づくことになり、会社によって、そして人によって異なった結果が導き出されます。そんな主観に左右される不確定な未来の予測に基づいて財務諸表を作成して、信頼性のある財務諸表といえるのだろうか、というものです。
 こうした批判に対し、現代の企業会計は次のように反論します。
「上場企業の財務諸表は投資家の投資判断に資するものでなければならない。株価がその会社の将来キャッシュフローの現在価値を反映するものだとするなら、投資家は投資しようとする会社の将来キャッシュフローを予測する必要がある。したがって、財務諸表もその予測に役立つものでなくてはならず、財務諸表に将来予測を取り込むことは、投資家の投資判断に有用なはずだ。
 将来予測が主観に基づき、客観性が保てないということは、その通りだが、企業によって置かれた環境や保持する能力が違うことは当然であり、そうした差異が財務諸表に表現されるのも、これまた当然だ。そこで重要なことは、財務諸表作成の基礎となった将来予測をどのように行ったのかという説明が説得力を持つことだ。投資家は財務諸表に表現された数値結果だけではなく、その説明も含めて投資判断をするのだから、投資家に納得性のある説明をできるかが問われる。 

過去実績を重視する税務
 将来キャッシュフローの現在価値を重視するのであれば、会計理論的にはその通りなのでしょうが、そこで気になるのは税務です。税務で経済の将来予測に基づいて引当金を設定しても、認められません。なぜなら、税務では担税力のある利益と公平性が重視されるからです。
 税務では実際にキャッシュで納税しなければなりませんから、キャッシュの裏付けのある利益が求められます。また、すべての納税者に納得して税金を納付してもらうには、公平性も欠かせません。担税力のある利益と公平性を担保するためには、将来予測ではなく、過去の実績をベースに税務計算をすることが当然の帰結になります。

会計と税務の方向性の違い
 担税力のある利益と公平性は税務の生命線ですから、税務としては過去の実績重視は譲れません。一方、会計は投資家目線をより強め、将来予測にウェートを傾ける方向にあります。とすると、税務と会計の乖離が益々広がっていくのは避けられない情勢です。
 財務諸表利用者は会計と税務の目的の違いから発生する差異を十分に理解して、財務諸表を活用しなければなりません。

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