このほど、経済協力開発機構(OECD)加盟国など136の国と地域が法人税の最低税率を15%にすることについて合意に達しました。2023年からの導入を目指します。この合意はこれまでの税制の潮流を変える大きな転換点になるものだと思います。
税制にも競争を
ここ数十年、アメリカを中心とした世界の経済界を主として支配してきた思想は「新自由主義」といわれるものでした。新自由主義は、政府による市場への介入は最低限に抑え、できるだけ個人や企業の自由を尊重した経済活動を進めようとする考え方です。個人の自由度を最大限広げることが、経済パフォーマンスを向上させる最善の方策だと信じる思想です。
この思想を貫徹すれば、税制も政府による介入の一種ですから、法人税や所得税の税率はできるだけ低い方が望ましいということになります。また、国など公的機関においても民間と同様な競争が求められます。それは、税率の引き下げ競争にとどまらず、個人や企業などが自由な経済活動を行いやすいように制度や設備を整備することも含まれます。
こうした思想に基づいて、企業や個人が自由な経済活動を行った結果、経済全体が拡大し、拡大した経済の恩恵を受ける形で、最終的に経済的弱者も潤い(いわゆる「トリクルダウン」効果)、国民全体が豊かになると同時に、税率引き下げ分はパイの拡大でカバーし、税収も大きくは減少することはない、というのが新自由主義の狙いとする経済社会です。
効果がなかった
しかし、実際に起こったことは、先進国では経済の停滞は続き、お金持ちはより豊かになったのですが、その恩恵が低所得層に及ぶことはなく、貧富の格差は拡大しました。また、国家レベルでは税率引き下げにより法人税収は落ち込む一方、低所得層対策のための福祉支出に加え、近年ではコロナ対策のための経費が追い打ちをかけて、財政赤字の拡大を招きました。そこで各国政府はたまらず、税率引き下げ競争に終止符を打つべく、今回の世界的な法人税の最低税率の合意となったわけです。
ふるさと納税も新自由主義的
民間においては、個人の創意工夫を最大限に活かして、経済発展しようとする新自由主義的思想は、賛否はあるでしょうが、昔からあり、今後ともなくなることはないでしょう。しかし、それを公的な税制にまで適用することは、どんなに高邁な理想を述べたところで、終局的には、税率引き下げ競争に終始し、トータルとすれば税収の落ち込みを招くだけの結果になることが明確になったのだと思います。
こうした競争的要素を取り入れた新自由主義的税制は国内にもあります。その代表はふるさと納税です。ふるさと納税のそもそもの発想は、税収を国から交付される地方交付税ばかりに頼るのではなく、地方自治体にも競争原理を導入し、特色のある政策を実行することで魅力ある自治体になり、そこに住んではいないが、そうした自治体を応援したいと考える人々から住民税を納めてもらい、そのお礼として返礼品を送る、というものであったはずです。ところが実態は、魅力ある地域づくりという理想はそっちのけで、返礼品の良し悪しを巡る競争に堕してしまっています。
今では、商品券を配るといったような行き過ぎた返礼品競争は幾分是正されたようですが、それでも税率引き下げ競争の実態に変わりはありません。国民全体が納付する住民税額は同じなのですから、トータルで計算すれば、返礼品の分だけ、日本全体の地方自治体が受け取る住民税額は減少するのは自明です。これから福祉や医療制度の充実のために益々公的サービスの拡充が求められる中で、住民税が主として富裕層が得をする返礼品に消えてしまうのは合理的とは言えません。
ふるさと納税は前首相肝いりの政策であっただけにこれまでやや聖域視された感がありますが、政権が変わると同時に、世界的に新自由主義的税制の見直しが叫ばれていることから、今後どのように変わっていくか(あるいは変わらないのか)が注目されます。