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コラム

「ストックとフローで考える国債・GDP比率」

 よく知られているように、決算書の数値にはストックのものとフローのものがあります。ストックの数値とフローの数値を見比べる財務指標は、その性格の違いに留意して評価しなければなりません。そして、それと同様なことは国家の計数である国債やGDP(国内総生産)についてもあてはまります。

借入金と売上高
ストックとは一定時点における残高であり、フローは一定期間における流れた数量の合計値です。決算書の貸借対照表はストックの数値であり、損益計算書はフローの数値です。決算日が3月末であれば、資産や借入金等の貸借対照表の数値は3月31日現在における残高ですし、売上高や利益などの損益計算書の数値は前年の4月1日から本年の3月31日まで発生した数値の累計になります。ですから、同じような数字が並んでいても、数値の性格が異なります。両者の重要な相違点は、ストックの数値は次期以降引き継がれるのに対し、フローの数値は毎年ゼロから積み上げなければならないという点にあります。
 企業目的が利益の極大化にあるとするなら、利益はフローですから、フローの売上高が必要になり、売上高拡大のためにストックである資産をどのように用意し、そのために借入金をどのように利用するかが、経営者の経営手腕だということになります。
 経営を評価する指標として借入金・売上高比率(借入金÷売上高)があります。これはストックである借入金とフローの売上高の比較であり、この数値は小さいほどよしとされます。たとえば、銀行から資金を借り入れて設備投資をして、売上高拡大を図ろうとする企業があったとします。すると、分子の借入金が増加しますから、借入金・売上高比率を悪化させないためには、分母である売上高が相応に増えなければなりません。ここで、借入金と売上高の性格の違いが重要になります。借入金はストックですから、その残高は返済分を除き次期以降に引き継がれますが、売上高はフローですから、毎期ゼロから積み上げなければなりません。つまり、借入金・売上高比率をある程度維持するためには、借入金による設備投資効果は1期だけでなくフローとして継続的に売上高拡大をもたらすものが必要になります。
 そんなことは企業経営では、誰でも知っている当然の理屈です。それは国家経営にもあてはまると思います。

国債とGDP
 国家では企業のように複式簿記を採用していないので、ストックとフローを明確に意識することは余りありませんが、この考え方を援用することができます。財政健全化指標として真っ先に挙がるのは国債・GDP比率(国債÷GDP)です。ここで、前述のストックとフローの概念を用いると、国債は政府の借金としてストックの数値となり、GDPは一定期間における付加価値の合計高ですから、フローの数値になります。
 今、盛んに議論されている国債を発行して、それを財源に給付金や助成金を支給するということをストックとフローの観点から整理すれば次のようになります。政府支出が産業構造改革や技術革新のような成長のための投資に充てられるなら、GDPに対する継続的効果が期待できますが、給付金や助成金などのバラマキ型の消費刺激目的のGDP拡大効果は単発的なものに終わります。給付金や助成金を支給すれば、個人の消費が増加してその年のGDPは増加しますが、GDPはフローですから、その効果は1回限りで、翌年からはまたゼロから積み上げなければなりません。来年、給付金や助成金がストップしてしまえば、その分GDPは減少するでしょう。ですから、GDPを維持するためには、再度給付金や助成金の支出が必要になります。一方、その財源となった国債はストックですから、償還しない限り、次年度以降に引き継がれます。つまり、消費刺激の財源を国債に頼るということは、フローのGDP拡大は単発で終わるのに対し、ストックの国債の残高は累積的に積み上がることにより、国債・GDP比率は悪化し続けることになります。我が国の財政悪化の深化はこうした歴史を如実に物語っています。
 言うまでもなく、本当に困っている人に給付金等を支給することは国家として当然の責務です。それとは別の次元で、財政健全化問題を考えるに際し、企業会計で利用される複式簿記におけるストックとフローの概念の応用は有効だと思います。先の総選挙における与野党のバラマキ的な選挙公約を見て、そんなことを感じました。

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