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日銀政策委員会に見る企業ガバナンスの問題

2013/04/17

 日本銀行の総裁が白川氏から元財務官の黒田氏に代わり、日銀の政策スタンスは非常に大きく変わりました。日銀の金融政策は政策委員会の合議で決まり、政策委員会は総裁1人、副総裁2人、審議委員6人の計9人で構成されます。メンバーで入れ替わったのは総裁と副総裁だけで、審議委員の6人は変わっていません。非常にドラスティックな政策変更であったにもかかわらず、政策委員会の満場一致で今回の決定がなされたことに違和感を持つ人が多いようであり、そういう報道もあちこちで見受けられます。

 本稿では、審議委員の人たちを"変節"だと批判しようというのではありません。多分、審議委員の方々はそれぞれに合理的理由を持ち、白川総裁の方針にも黒田総裁の方針にも賛成しているのだと推察されます。それはそれでいいのですが、私には日銀の政策委員会におけるこの決定の様子は日本企業のガバナンスの問題を、ある意味象徴しているように思えてなりません。

日本の取締役会

企業の執行機関の中核は取締役会です。代表取締役(社長)がおかしなことをしようとしても、取締役会のメンバーである取締役がしっかりしていれば、社長の暴走を食い止めることができるように制度設計されています。しかし、オリンパスも大王製紙も社長の暴走を取締役会で食い止めることはできませんでした。その原因を取締役の独立性の不足に求める意見が一般的です。
取締役は会社によって雇用される一般社員とは立場が決定的に異なります。株主によって選ばれ、株主のために行動しなければなりません。しかし、日本企業の取締役にはその辺の基本認識が欠けており、社員の延長線上で取締役の職務を考えている人が少なくありません。
取締役は形式的には株主総会で決定されますが、実質的には社長(代表取締役)が社員の中から候補者を選んだ段階で決まります。取締役(重役)になるということはサラリーマンの一つの到達点ですから、自分を取締役にしてくれたのが社長だと考えれば、取締役会で社長の意に逆らうことは難しくなります。株主のため、つまりは会社を良くするために取締役として判断するというより、社員と同じ目線で社長のために働くと考えてしまうのです。また、社長も人の子ですから、自分に意見するような剛直な人間より、自分の意向に逆らわない人を取締役に選びたくなるのも人情です。日本は終身雇用の会社が多いこともその傾向に拍車をかけ、取締役会のガバナンス体制が有効に機能しないということが日本の企業の問題点として指摘されていました。そこでガバナンス強化のため、社外取締役や独立取締役の存在がクローズアップされてきています。

ハードよりソフトが重要

日銀の審議委員は日銀の外部から識見の高い人が選ばれています。その独立性の高さも言うまでもありません。それでも、今回の政策変更は満場一致で決まりました。日銀の政策委員会と会社の取締役会は目的もあり方もまったく違うものであり、両者を同じ土俵の上で論じることは乱暴な議論だということは十分承知しています。それでも、会議がその場の空気に支配されることや、トップの意向に逆らうことは容易でないという日本社会特有の土壌は共通しているように思えます。
このように考えると、単に社外の人間だからというだけで、社外取締役や独立取締役を選任したところで、それだけでガバナンスの有効性を確保できないことがわかります。社外取締役や独立取締役は単なるハード面の整備です。会社のガバナンスを真に有効に機能させるには、ハードを整えるだけでよしとするのではなく、ソフト面の充実が不可欠です。何より経営トップが重要です。トップには決断力も重要ですが、反論を許す度量の広さも求められます。また、取締役会の構成メンバーである取締役は社内取締役にしろ、社外取締役にしろ、自分が会社のガバナンスの最後の砦であるという認識を強く持たなければなりません。


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