「経営トピックスQ&A 2025年4月号」掲載
Q.社員の「病気と仕事」「育児・介護と仕事」の両立を支援するための制度を検討しています。使いきれなかった年次有給休暇(以下、年休)を、積み立てておく制度があると耳にしたのですが、詳しく教えてください。
A.■積立年休制度
積立年休制度とは、時効(2年間)により失効した年休を積み立てておき、病気や育児・介護といった特定の事由に該当したときに使えるようにする制度です。本制度は関連法で導入が義務付けられたものではありませんから福利厚生的な制度と言えるでしょう。個々の社員が抱える一定の事情と、仕事との両立を図るため、このような任意の休暇制度の導入を検討する企業が増えているようです(少々古い情報になりますが「平成28年民間企業の勤務条件制度等調査結果の概要(人事院)」によれば全企業平均で29.6%が積立年休制度を導入済みということです)。
■制度導入時のポイント
上記のとおり、積立年休制度は任意の制度であるため、その運用ルールについては企業差があります。せっかく導入した制度が労使トラブルの種にならないよう、導入に当たっては慎重な検討が必要です。以下でポイントをお伝えします。
①取得単位:積立年休を取得できる単位を、1日単位のみとするか。半日単位、時間単位まで認めるか。
②有効期限:有効期限を設けるか。無期限とすることも可能ですが、その場合は以下④を設定するのが一般的です。
③年間積立日数の上限:その年に失効した年休の内、1年間に何日分までの積み立てを認めるか。もちろん上限を設けない形も可能です。また、半日、時間単位の失効分の積立も認めるかも検討が必要です。
④総積立日数の上限:毎年累積していく積立年休の合計残日数に上限を設けるか。一般に上限を設定しない事例はほぼありませんが、上限日数を何日にするかについては相当企業差があります(30日~60日とする事例が多いが、100日とする例もあります)。
⑤取得理由の制限:法定の年休と異なり、積立年休制度は会社が取得理由を制限できます。制度の目的からも、取得理由は明確に限定すべきと考えます。介護、私傷病による休職を取得理由とする例が多いですが、自己啓発のための研修、ボランティアによる利用を認めている例もあります。
⑥他の休暇との取得優先順位:法定の年休が残存している場合に、積立年休の取得を認めるか。積立年休の優先取得を認める、とすることも可能ですが、法定年休の取得義務(5日/年)との兼ね合いから、一般的には法定の年休取得を優先する例が多いです。
⑦就業規則の変更:休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項とされます。上記のポイントを踏まえ、関連規程を変更、又は、積立年休制度規程を新設する必要があります。
■おわりに
積立年休制度は、企業によっては「ストック休暇制度」「失効年休積立制度」等、様々な名称で活用されています。任意性のある制度だからこそ、企業ごとに工夫が可能な領域であり、福利厚生面での差別化にもなります。また、社員にとってメリットが大きいため、導入に当たり労働組合からの賛同も得やすいでしょう。企業にとっても失効する年休を活用して福利厚生につなげられることから、直ちに人件費などのコスト増につながるものでもありません。
すでに積立年休制度を導入している企業は、就業規則の変更さえ行えば対応できるという手軽さもありますので「子の看護や介護を利用事由に追加する」「半日単位や時間単位での取得を認める」といった追加的対応もぜひご検討いただければと思います。