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あがたグローバル社会保険労務士法人船井総研 あがたFAS

住宅ローン固定金利における保険の役割

2025/10/01

 多くの場合、住宅は人生最大の買い物であり、そのため購入に際しては、自己資金だけでは足りず、ほとんどの人は住宅ローンを組むことになります。そのローンも年収の何倍もの金額に達しますから、借入期間は長期にならざるをえません。その時、借入金利として変動制か固定制の選択を迫られますが、そのどちらを選ぶかは、将来の生活設計を大きく左右します。

 大多数の人は、今後の金利動向を予想しながら、有利な方を選択しようとします。つまり、損得勘定を優先して判断することになるでしょう。それはそれで重要なことなのですが、今後の政治・経済情勢等の不透明性を考えれば、将来の金利上昇リスクに対して保険をかけるという視点も重要になってくると思われます。

 

損得勘定は結果論でしか分からない

 変動制か固定制かの選択を損得勘定で判断しようというのは当然です。ただ、その当否を見極めるのはそう簡単ではありません。

 金利が定まっている固定制では、支払利息額をあらかじめ計算することができますが、変動制は金利が変わりますから、トータルでいくらの利息額を支払うのかを事前に確定させることはできません。変動金利の支払利息額を計算するには、将来の経済・金融情勢をベースに今後の金利を予想するしかありません。

 しかし、経済や金融の専門家でもそんな長期の予測は難しいのに、素人の住宅ローン借入者が30年も50年も先の金利情勢などを的確に予想することは不可能です。その結果、綿密に予想することを諦め、今の金利情勢が借入期間中もおおよそ継続すると仮定して、若干の幅を持たせながら概算せざるをえません。結局、当面の表面金利の安さにつられ、変動金利を選択しているというのが実情かと思います。しかし、当然のことながら、最終的にどちらが有利であるかは返済が終わってみなければ分かりません。つまり、損得勘定は結果論でしか判断できないのです。

 

固定金利と変動金利の差額は保険料

 他方、金利選択にはまた別の視点もあります。それは「将来の不確定な金利上昇リスクに対して保険をかける」というものです。現在の変動金利は固定金利より低いのですが、その差額を保険料と考えるのです。保険の話に入る前に、なぜ変動制は固定制より金利が低いのか、そこから考えてみましょう。

 よくなされる説明は、金利設定のメカニズムの違いによるものです。ほとんどの銀行で、変動金利は短期プライムレート等の短期金利に連動するのに対し、固定金利は長期国債等の長期金利に連動します。そして、多くの場合、短期金利の方が長期金利より低いことから、変動金利は固定金利より低くなるという説明です。ただ、これは銀行内部の原価管理の問題であり、借入者がなぜ高い固定金利を受け入れるのかという理由としては説得力が弱い気がします。そこで次のような説明が登場します。

 それは金利変動リスクの負担者の違いに着目するものです。住宅ローンの貸出期間は長期にわたりますから、その間に金利が変動するリスクが存在します。その金利変動リスクを誰が負担するかです。リスク負担者は、変動制では借入者ですが、固定制ではローンを貸し出す銀行になります。固定金利が変動金利より高くなるのは、金利変動リスクを負担する銀行側が受け取る手数料が金利に乗っているからだと解釈することができます。借入者から見れば、固定金利と変動金利の差額は将来の金利変動リスクを銀行に負ってもらう対価としての一種の保険料だと考えられます。この説明であれば、借入者にも固定金利のメリットが生じるわけですから、納得しやすいものがあります。

 やや金利上昇傾向にあるとはいえ、現状は歴史的に見れば低金利です。過去に遡れば、住宅ローン金利が4%や5%あるいはそれ以上の時も普通にありました。変動金利の住宅ローンでは、そこまで金利が上がってしまうと、ローン返済が困難になる事態も想定されます。それに備えて保険に入ろうというのです。

 死亡保険は契約者が死亡したときに、火災保険は自宅が火災で焼失したときに保険金を受け取ります。これと同様に、金利が上昇した時に、その時の高くなった変動金利ではなく、借入時に提示された安い固定金利で済ますために、固定金利と変動金利の差額である保険料を支払おうとするものです。別の言い方をすれば、変動金利より高い固定金利を選択するのは、支払利息の上昇という危険を避ける「安心」を買っているといってもいいでしょう。

 

金利上昇リスクの増大

 だからといって、すべての人が保険に入らなければならない、といっているわけではありません。「万一の時に備えたい」と思う志向の強さは人によって異なるからです。万一に備えてできるだけ準備しておきたいと考える人もいるでしょうし、あるかないか分からない万一より、確実に存在する当面の損益の方が大事だと考える人もいるでしょう。固定制か変動制かの金利選択をしようとするとき、自分はどちらの志向が強いかを見極めるのが第一歩です。

 その上で、次に保険料の妥当性の検証に移ります。現在、変動金利と固定金利の差額はだいたい1%程度のようですが、この1%が保険料として妥当かどうかを評価します。元本が大きいだけに1%の差額は大きいように感じますが、その感じ方はその人の保険に対する志向の強さと金利変動リスクの蓋然性予想によって変わるはずです。

 現在、超長期国債の利回り高騰が注目され、将来の金利上昇が懸念されています。また、政治状況も日本だけでなく、アメリカを筆頭に世界的にも不透明であり、将来の不安定性は増しており、金利変動リスクは大きくなっているのではないかと思われます。

 変動制と固定制のどちらを選ぶかは個人の財政状況、将来の金利見通し、そして何よりその人の考え方によって異なって当然です。ただ、将来の政治・経済状況等の不透明性を考えれば、金利選択に際して、実際の優劣を事前に判定しにくい損得勘定だけではなく、これまでやや軽視されてきた「金利上昇に対して保険をかける」という視点はもっと見直されてもいいのではないかという気がします。

 

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