取引相場のない株式(いわゆる自社株)の相続税評価について、令和5年度決算検査報告において会計検査院が国税庁に「制度の見直しを求める意見」を示しました。この報告が直ちに通達改正につながるのか、現行の実務に影響を与えるのか気になるところです。以下、検査院の報告事項と実務のポイントを整理してみます。
1 類似業種比準方式による評価額が、純資産価額方式に比べて低すぎる
原則的評価方式には①純資産価額方式②類似業種比準方式③併用方式の3つがあります。実務では②の比重が大きいほど株価が低くなる傾向があり、会社規模が大きいほど②の比重が大きくなります。検査院は、各評価方式の間で評価額に相当のかい離が生じている状況において、以下の2点を問題視しています。
・株式評価の公平性が必ずしも確保されているとはいえない
・意図的に会社規模区分を操作して評価額を抑えている納税者が存在している
2 改正はすぐには行われない
今回の報告は指摘事項ではなく意見表示に過ぎません。国税庁が実際に通達を改めるには、政令改正や税制調査会での議論が必要で、利害関係者(中小企業・金融機関・税理士業界など)の調整にも時間を要します。加えて、事業承継税制(特例措置)の運用期間が令和9年末まで続くため、大胆なルール変更は政策全体との整合性を欠きやすいという事情もあります。
3 実務のポイント
・現行制度での贈与・承継スケジュールを予定どおり進めていく。
・特に評価額が低くなりやすい大規模の会社では、将来の改正を見据えて早めに承継を進める。
・株価引き下げ狙いの安易な会社規模区分の操作等は税務リスクが大きいため、実行する際は事前に専門家に相談して進める。
結論として、検査院の指摘は“将来改正の火種”にはなり得るものの、すぐに現行実務が覆るわけではありません。既存制度を最大限に活用し、事業承継や株式贈与を確実に進めることが肝要です。ご不明点や具体的な対策についてのご相談は、いつでもお気軽にお申し付けください。