「税務トピックスQ&A 2025年11月号」掲載
Q.2025年度税制改正により所得税の基礎控除や給与所得控除などが見直しされたと聞きました。その改正された内容と源泉徴収事務への影響を教えてください。
A.■所得税の税制改正の背景
(1)所得税については、基礎控除の額が定額であるため、物価が上昇している局面では実質的な税負担が増えてしまうという課題があります。生活必需品を多く含む基礎的支出項目の消費者物価が1995年から2023年にかけて20%程度上昇している動向を踏まえ、所得税の基礎控除の額を20%程度引き上げることとされました。
(2)給与所得控除については、給与収入の割合に応じて計算されるため、物価の上昇とともに賃金が上昇すれば控除額も増加するものです。しかし、最低保障額が適用される収入である場合、収入が増えても控除額が増加しないため、物価上昇への対応といわゆる103万円の壁を超えないようにする等の就業調整にも対応させるため最低保障額を10万円引き上げることとされました。
所得税における税制改正は、上記の他、多岐にわたりますが、今回はこの2点について解説します。
■基礎控除の改正
基礎控除について、合計所得金額が2,350万円以下である個人の控除額を最高48万円から最高58万円に10万円引き上げることとされました。
ただし、合計所得金額が2,350万円を超える個人の基礎控除の控除額に改正はありません。
■基礎控除の上乗せ特例の創設
2025年分及び2026年分の基礎控除額には上乗せの特例が創設されたため、合計所得金額が655万円以下である個人は58万円の基礎控除額に次の特例額が上乗せされます。
・132万円以下 → 37万円
・132万円超336万円以下 → 30万円
・336万円超489万円以下 → 10万円
・489万円超655万円以下 → 5万円
上記の改正に伴い、所得税法の別表第2(給与所得の源泉徴収税額表、月額表)などの別表が改正されます。
また、合計所得金額が132万円以下である個人にかかる基礎控除額の上乗せ特例は2027年分以後も適用されることとなっています。
■給与所得控除の改正
給与所得控除について、給与等の収入金額は190万円以下である個人にかかる55万円の最低保障額を65万円へ10万円引き上げることとされました。
なお、給与等の収入金額は190万円を超える個人にかかる最低保障額は改正されていませんので注意が必要です。
この給与所得控除の改正に伴い、所得税法の別表第5(年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表)も改正されます。
■これらの改正による源泉徴収事務への影響
(1)基礎控除と給与所得控除の改正は2025年分以後の所得税について適用されます。その施行日が2025年12月1日であり、その日以後に行う年末調整などの源泉徴収事務に影響があります。
(2)2025年12月に行う年末調整の際には、改正された所得税の各別表を適用することとなり、使用ソフトやデータを更新する必要があります。
■源泉徴収事務担当者が注意すべき点
(1)2025年11月までは従前どおりの源泉徴収を実施すること
(2)12月以降は、基礎控除等の改正により新たに扶養控除等の対象親族となる者を確認すること
(3)改正後の基礎控除額や給与所得控除額などに基づき、年末調整の計算をすること