1997年に持株会社の設立が解禁されてから、四半世紀以上が経過しました。2023年9月末時点の情報ですが、上場している持株会社は670社以上にのぼります[1]。今や上場会社だけではなく、非上場会社においても、M&A、経営統合または事業承継といった重要な局面で、持株会社が活用されることがあります。私自身、非上場会社の持株会社設立についてご相談を受けたり支援したりすることもあり、その活用がより身近になってきていると感じます。
■持株会社の歴史
持株会社は、他の会社の事業活動を支配する目的で、その会社の株式を保有する会社のことをいいます。持株会社には、持株会社自身も事業を行う「事業持株会社」と、自らは事業を行わず他社の事業活動を統括することを本業とする「純粋持株会社」に大別されますが、本コラムでは純粋持株会社に焦点を当てて解説します。
持株会社の歴史は古く、100年以上前にさかのぼります。1910年代を通じて財閥コンツェルンが誕生し、1930年代には新興コンツェルンが登場しました。しかし、戦後、財閥コンツェルン・新興コンツェルンは解体され、1947年に制定された独占禁止法9条により、事業支配力の過度の集中防止を目的として、持株会社の設立が禁止されました。その後、1953年に規制が一部緩和され、国際競争への対応や経済の構造改革を背景に、1997年に持株会社の設立が解禁されました。
■持株会社のメリット・デメリット
持株会社への移行は、経営構造を根本から変える大きな決断です。持株会社のメリット・デメリットを理解して、自社にとって最善の選択であるかを見極める必要があります。
◎メリット
①戦略と事業の分離
持株会社は、特定の事業に縛られることなく全体最適を重視して、グループ全体の戦略立案に集中できます。各事業子会社では、より一層コスト意識や経営意識を持ちながら事業に専念し、自立性を高めることができるでしょう。
②権限と責任の明確化
各事業子会社に権限と責任を委譲しやすくなり、独立採算の経営を求めることで、各子会社の経営陣や中堅幹部は「自分たちの会社を経営している」という意識を持つようになります。これは、経営人材の育成とモチベーション向上に直結します。ただし、権限と責任の範囲を曖昧にすると、かえって意思決定が遅れる可能性もあるため、明確な規定が不可欠です。
③事業構造改革のスピードアップ
M&Aにおいて、持株会社の傘下に他社を迎え入れる形であれば、合併よりもスムーズに進められるケースが多くなります。また、事業を他社に譲渡する際も、事業子会社の株式譲渡という形をとることで、事業譲渡や会社分割に比べて譲渡を容易に行うことができます。既存事業が成熟しつつあり事業領域を転換したいとき、新規事業の立ち上げがしやすいといったメリットもあります。新規事業にはリスクが伴いますが、そのリスクがグループ全体に及ばないように遮断しやすくなります。
④柔軟な人事制度の採用
複数の事業を持つ会社では、事業ごとに異なる人事制度を導入することは難しいものですが、持株会社化してそれぞれ独立した事業子会社とすることで、各社の状況に応じた勤務時間や給与体系などを柔軟に設計できます。また、各社の業績を給与体系に反映させやすくなります。
⑤円滑な経営統合の手段
M&A等で異なる組織文化を持つ会社を統合する際、合併よりも、まずは持株会社の下に両社を併存させる形が選ばれることが多いです。これにより、本格的な融合を図るまでの時間的猶予が確保でき、組織間の摩擦を最小限に抑えながら、段階的に統合を進めることが可能になります。
◎デメリット
①グループ経営の求心力の低下
各事業子会社に独立採算を求めるがゆえに、親会社である持株会社への求心力が低下する可能性があります。これを防ぐためには、グループ全体の明確な経営理念やビジョンを掲げ、権限と責任の範囲を明確にすることで、一体感を維持する努力が不可欠です。
②グループの状況把握の複雑化
各事業子会社の財務状況や業績は明確になりますが、その反面、グループ全体の状況を俯瞰することが難しくなることがあります。このような課題には、連結決算や、グループ全体を横断的に把握できる管理会計システムの導入により対応することが考えられます。
③税額の増加
一つの会社であれば、各事業の利益と損失が相殺されて課税されますが、事業会社ごとに税金を納めるようになると、ある事業子会社の利益と別の事業子会社の損益は相殺されないため、グループ全体で税額が増加するケースがあります。このようなケースに対しては、グループ通算制度の導入が有効です。
④借入金・支払利息の増加
一つの会社であれば、事業間で資金を融通しやすいですが、事業子会社ごとに借入を行うようになると、グループ全体では、借入金や支払利息が増加する可能性があります。グループ内の資金融通で解消することはできますが、資金の過不足を常にモニタリングし続ける体制が必要です。規模の大きいグループの場合は、キャッシュ・マネジメント・システム(CMS)の導入も有効な選択肢です。
⑤間接経費のアップ
各事業子会社に管理部門が置かれることで、グループ全体の間接経費が増加する可能性があります。これを抑制するためには、持株会社がグループ全体の管理機能を担うか、複数の事業子会社の間接部門を1つの子会社に集約するなど、業務効率化とコスト削減を図る工夫が求められます。
参考文献
發知敏雄,箱田順哉,大谷隼夫(2021).『持株会社の実務(第9版)』.東洋経済新報社.
あがたグローバル税理士法人,アヴァンセコンサルティング株式会社(2018).『グループ経営をはじめよう(第4版)非上場会社のための持株会社活用法』.税務経理協会.
下谷政弘(2006).「持株会社の歴史展開」『組織科学』40巻,2号, p.43-51.
[1] 西本光希(2023)「持株会社化の近時動向」.株式会社大和総研.2023.https://www.dir.co.jp/publicity/magazine/u2m68r0000007ka2-att/23110104.pdf,(参照2025-07-11)