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中小企業におけるPMI

2024/09/12

「経営トピックスQ&A 2024年9月号」掲載


Q.中小企業によるM&Aが増えています。M&Aの目的の実現やその効果の最大化のためには、PMIが重要であると聞きました。PMIの概要やポイントについて教えてください。

 

A.■PMIとは

 PMI(Post Merger Integration)とは、主にM&A成立後に行われる統合に向けた作業です。今まで別々だった会社が、経営方針から業務プロセスにわたり、何を変えて何を変えないのかを決めて、M&Aの目的実現のためにさまざまな取組みを行います。取組み方を誤ると、M&Aの譲渡側の従業員が不信感を抱き、人材流出につながることもあるため、慎重な対応が必要です。


■3つの取組領域

 事業承継や事業拡大等の手段として、中小企業におけるM&Aが広がりつつあるため、2022年3月に中小企業庁が「中小PMIガイドライン~中小M&Aを成功に導くために~」を公表しました。これにより、中小企業におけるPMIの方法が整理され、ツールや事例を活用しやすくなりました。本ガイドラインは、PMIの取組領域を、次の3つに整理しています。

①経営統合 経営の方向性、経営体制、仕組み等の統合を目指します。何のためにM&Aを実行したのか、これから経営はどこに向かっていくのかを言語化して、社内外の関係者に説明することが求められます。

②信頼関係構築 組織・文化の融合に向けて実施する取組みで、経営ビジョンの浸透や、従業員の相互理解、取引先との関係構築等を目指します。譲渡側従業員の従来の業務やそのやり方を否定せず相手を尊重することが、信頼関係構築で重要な要素のひとつとなります。

③業務統合 事業(開発・製造、調達・物流、営業・販売)や、管理制度(人事、会計・財務、法務)に関する統合を目指します。譲渡側従業員からの希望を踏まえて、早期に成果を得られる取組み(クイック・ヒット)から実施すると、譲渡側従業員にM&Aによる具体的なメリットを実感してもらいやすくなります。


■PMIのポイント

 組織や事業が人によって成り立っていることを考えれば、PMIにおいて最も重要なポイントは、信頼関係の構築ではないかと考えます。信頼関係の構築について、次の京セラによるM&Aのエピソードに、示唆を見出せるのではないでしょうか。

 同社は、現在も電子部品事業で重要な子会社である米国のAVXという会社を1990年に買収しました。このとき、京セラの稲盛和夫氏は、同社からAVXに出向する社員に対して「買った側という態度を示すな」と言ったとされます。それだけでなく、学ぶ姿勢を持ち、稲盛氏自らトップ同士で実際の製品を見ながら話し合い、感覚を擦り合わせるなど、謙虚に接したとされます[i]。そして、当時AVX側にいて後に会長となった人物は、次のように語っています。稲盛氏はAVXとの関係を、実際は買収(Acquisition)なのに、合併(Merger)と言ってくれた。AVXの株主や従業員に対して寛容であり、その誇りを大切にしてくれた。だから、このM&Aはうまくいったのだ[ii]。


■おわりに

 PMIの過程では、さまざまな利害や感情が絡み、停滞することもあるかもしれません。このような時こそ、M&Aの目的や統合により成し遂げたいことに立ち返るとともに、互いに尊重する気持ちを忘れないことが重要ではないかと考えます。


[i] 稲盛流M&A、京セラに脈々と 人心掌握に30年の計. 日本経済新聞. 2022-09-05, 日本経済新聞電子版https://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXZQOUF311PZ0R30C22A8000000 ,(参照2024-07-04).

[ii] 北康利. 思い邪なし 京セラ創業者稲盛和夫. 毎日新聞出版, 2019, p.313-314

執筆者

岡宮 春輝Haruki Okamiya

アシスタントマネージャー・公認会計士

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