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提携の時代にこそ求められる個性

2025/01/06

 最近、同業種間での業務提携報道が相次いでいます。2024年12月13日の日本経済新聞によると、大手家電メーカーと家電量販店が共同物流や在庫管理といった流通戦略を策定する新会社を2027年にも共同で設立する検討に入ったとのことです。実現すれば、かなり大がかりな業務提携になりそうです。また、2024年11月26日の日本経済新聞には「戸建て住宅大手の積水ハウス、積水化学工業、旭化成ホームズが住宅部材を共同配送する取り組みを始める」という記事が掲載されました。地域ごとに物流拠点を共有し、3社が調達した建材などを一度に運ぶことによる配送コストの低減を狙いとしています。さらに、先般は全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)が仙台空港で地上業務の提携を行うことを発表しています(2024年5月15日付日本経済新聞)。

 今後こうした形の同業種企業の提携が益々多くなることが予想されます。ただ、この種の提携は、費用削減効果は期待できるにしても、依然として同業のライバルであることに変わりはないのですから、提携がかえって本来の持ち味を削ぎ、逆効果になる危険性もあることに注意しなければなりません。

 

提携の時代背景

 これまでライバルとしてしのぎを削ってきた企業同士の提携が増加する背景から考えてみます。需要と供給の両サイドに提携を促す要因が存在します。

 まず、国内需要の低迷が挙げられます。経済成長の波に乗り、売上が好調に増える時代であったら、ライバル企業と提携などしないでしょう。単独ですべての業務を行えば、費用はかかるにしても、費用増は売上増加でカバーできる自信があるからです。しかし、少子高齢化は進み、人口減少も止まりません。国内を主要マーケットとする限り、需要の長期的な低下傾向は続きそうです。費用の増加を増収でカバーすることはできず、費用自体の圧縮が迫られます。

 それと裏腹の関係になるのですが、供給側の事情として労働力不足も深刻です。少子化で若年人口が減少すると共に、団塊の世代の退場で、生産年齢人口の減少は避けられません。そうすると、自社単独で網羅的にすべての業務をカバーするための人員確保が難しくなります。外注できる業務があれば外注を検討せざるをえなくなります。

 

経営統合か業務提携か

 こうした時代背景の下、生き残りのために、経営者は何らかの経営戦略を選択しなければなりません。まず考えられるのは合併などの経営統合です。経営統合ではすべての業務が統合の対象となり、経費削減効果は大きくなりますが、いきなりそこまで意思統一するのは大変であり、時間もかかります。そこで、まずは意思決定のしやすい特定の業務についての提携が浮上します。

 同業のライバルとの提携だと、企業秘密の保持や心理的ハードルもあり抵抗が強いことから、異業種企業との提携も選択肢の一つです。しかし、物流の共同化に見られるように、同じものを運ぶ方がコスト削減効果ははるかに高いので、異業種提携より同業種提携が選択されることになります。

 

差別化の源泉が重要

 というわけで、かつてはライバルとして競争していた同業ライバルとの提携が増えていくと思われます。物流や間接部門などを対象に業務提携を進めることになるのですが、そこで重要になるのが、自社の収益の源泉となるコア業務の位置づけです。企業は差別化を行うことにより付加価値をつけ、収益を上げるのですが、その収益の源泉となる業務は他社と提携することはできません。たとえば、「顧客の手元にいち早く届けること」をアピールポイントしている会社は物流部門を統合してしまえば、自社の持ち味が消えてしまいます。しかし、商品力を訴求ポイントにしている会社であれば、物流部門の統合にそれほど抵抗はないでしょう。そうした会社は商品力を一層磨かなければなりません。

 冒頭の例でいえば、住宅メーカーは居住性のよい住宅建設で、航空業界は地上業務ではなく飛行業務の安全性、接客性、ホスピタリティなどで差別化を図ろうとするのだと思います。

 確かに、同業他社と業務提携することにより、当面の経費を圧縮し利益を増加させることはできるでしょう。しかし、自社の収益の源泉となるコア業務、すなわち他社との差別化をどこで図るかを明確にしておかないと、長期的には大きいところに飲み込まれてしまう危険性があります。

 今後、どの業界でも業務提携は経営戦略の有力な選択肢になると思います。ただ、その際、経費削減効果を優先し、闇雲に提携するのではなく、他社との差別化、すなわち自社の将来の強みをどこに見出すかを常に再確認することが求められます。提携というと協調性に焦点が当たりがちですが、提携の時代だからこそ個性が重要になるのです。

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