東京・長野・金沢を結ぶエリアを中心に、税務・会計・人事・労務・M&Aをトータルサポート

あがたグローバル社会保険労務士法人船井総研 あがたFAS

戦略的提携の種類とメリット

2025/09/10

「経営トピックスQ&A 2025年9月号」掲載


Q.様々な業種で企業が提携を結ぶニュースを目にします。企業間の提携にはどのようなものがあるか教えてください。


A.国内市場の縮小、グローバル競争の激化、技術革新の加速など、現代の事業環境はかつてないほどの速さで変化しています。このような状況下で、企業が単独で事業目的を達成することは、ますます難しくなっています。そこで、目的を共有する企業同士が互いに協力する手段として注目されているのが、戦略的提携です。


■提携の方向性

 顧客に価値を提供するための一連の企業活動は、バリューチェーンと呼ばれ、研究開発から製造・販売まで多岐にわたります。提携相手がこのバリューチェーンにおいて、どの段階に位置するかによって、提携は2つに分類されます。

◎水平方向の提携 水平方向の提携は、自社と同じバリューチェーンの段階にある企業との提携を指します。イメージしやすいようにパン屋さんを例にとってみましょう。このパン屋さんが、隣町のパン屋さんと提携する場合は水平方向の提携です。一方が菓子パン、他方が惣菜パンを得意とする場合、互いのパンを販売し合ったり、原材料の共同購入や広告宣伝の共同化によって、費用を削減したりすることが期待できます。

◎垂直方向の提携 垂直方向の提携は、自社と異なるバリューチェーンの段階にある企業との提携を指します。前述のパン屋さんの場合、小麦粉の製粉メーカーとの提携がこれに該当します。提携により、パン屋さんは小麦粉の安定供給を確保できるだけでなく、特定品種の増産を要請できるかもしれません。製粉メーカーは、パン屋さんから販売データを共有してもらうことで、より消費者の嗜好やニーズに合った製品開発を行ったり、生産計画を立てたりすることができます。


■提携の形態

 提携参加者の関与度合いによって、提携は主に3つに分類されます。

◎業務提携 業務提携は、出資や共同出資会社の設立を伴わない契約関係による提携です。ライセンス契約・供給契約などが典型例です。比較的始めやすく、解消も容易であることから、最も柔軟性の高い形態といえます。しかし、資本関係がないため、提携参加者の結びつきが弱く、契約書に明記しにくい暗黙知やノウハウの移転には不向きな側面があります。

◎資本提携 資本提携は、提携参加者間で出資を伴う提携です。一般的に、互いの経営の独立性を確保するため、議決権比率は3分の1未満に抑えられます。より強い責任感を持って提携事業に関わる場合に選択され、信頼関係が深まるにつれて、暗黙知やノウハウの移転が促進される効果も期待できます。

◎ジョイント・ベンチャー(JV) JVは、提携参加者が共同出資会社を設立する提携です。一般的に、共同出資会社への出資比率は、参加者間で同等にするケースが多いです。JVは、提携事業への忠誠心を高めやすく、事業執行やリスク管理、そして成果配分がしやすいという特徴があります。不確実性が高く競争の激しい市場への参入や、周辺・関連事業の共同化を進める場合に、利用されやすい形態です。


■むすびに

 戦略的提携の成功に欠かせない要素は、提携パートナー間の信頼関係の構築であると指摘されています[i]。その構築には、個人間のコミュニケーション、異なる組織文化への寛容さ、短期的な利益にとらわれず長期的な成功を目指す姿勢が重要となります。自社の強みと弱みを深く理解し、足りない部分を補い合えるパートナーを見つけ、信頼関係を築いていくことが、事業展開の鍵となるのではないでしょうか。


[i] ジェイ B.バーニー、ウィリアム S.ヘスタリー著/岡田正大 訳『[新版]企業戦略論―戦略経営と競争優位―【下】全社戦略編』ダイヤモンド社、2021年 167頁

執筆者

岡宮 春輝Haruki Okamiya

マネージャー・公認会計士