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税制適格ストックオプション

2024/12/10

「税務トピックスQ&A 2024年12月号」掲載


Q.当社は、上場に向けて税制適格ストックオプションの付与を検討しています。税制適格要件のうち、権利行使価額を算定する際のポイントについて教えてください。

 

A.■税制適格ストックオプション

 税制適格ストックオプションに該当する場合、当該ストックオプションを行使して株式を取得した日の給与課税を繰り延べ、その株式を譲渡した日の属する年分の株式譲渡益として所得税の課税対象とすることができます。

■権利行使価額

 権利行使価額とは、ストックオプションの権利を行使し、自社株を購入する時に支払う価格のことです。税制適格ストックオプションの権利行使価額は、ストックオプションに係る契約の締結時の株価以上とする必要があります。これまで権利行使価額が税制適格を否認されないために高めに設定していたという実務を踏まえ、令和5年7月の租税特別措置法通達の改正により、当該株式が取引相場のない株式である場合には、一定の条件の下、財産評価基本通達の例により算定することが認められました。

 その結果、未公開企業では、権利行使価額を純資産価額方式による「(税務上の)1株当たり純資産」とすることも可能になりました。純資産価額がマイナスになる場合の権利行使価額は、備忘価額の1円以上の任意の価額とすることができます。

 通達改正前は、ベンチャーキャピタル等から資金調達した場合に調達時の株価を考慮して権利行使価額を算定するため、株価が高くなるとリターンが少なくなる点がデメリットになっていましたが、今回の改正により売買実例に基づかずに権利行使価額を算定できるようになりました。

■会計処理への影響

 税制適格ストックオプションに該当するためには、権利行使価額は株式の評価額を上回るように設定されますが、その場合、未公開企業においては損益計算書に株式報酬費用は計上されませんでした。

 しかし、今回の通達改正により権利行使価額を「(税務上の)1株当たり純資産」とした場合、権利行使価額が株式の評価額を下回ることが想定されるため、その差額にストックオプション数を乗じて算定した額のうち当期に発生したと認められる額が費用として計上されます。費用計上の際、権利付与日から権利確定日までの対象勤務期間を決定する必要がありますが、上場準備会社は権利確定日を上場後にする条件を付すことが多く、付与時点では権利確定日を見積もることが困難なケースでは、付与日に⼀時に費用を計上することになるため、付与した事業年度の業績への影響が大きくなります。上場が近い時期に付与した場合には上場時の公募価格に影響することも考えられます。

■おわりに

 令和5年度及び令和6年度税制改正により、権利行使価額の算定方法以外にも、税制適格ストックオプションの要件が緩和され、これまで以上にストックオプションを活用する企業が増加することが見込まれます。

 令和5年5月に信託型ストックオプションが税制非適格とされ給与課税される見解が国税庁より示され、導入していた企業は源泉所得税の納税義務が生じるなど大きな影響を受けました。税制適格を否認されないよう慎重に設計する必要があります。

 また、ストックオプションは、高水準の給与を提示できないスタートアップの企業にとっては、優秀な人材の確保やモチベーションの向上に効果的ですが、過度に付与すると、必要な人材が上場後にストックオプションを行使して退職してしまうといったリスクがある点にも注意してください。

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