「税務トピックスQ&A 2025年8月号」掲載
Q.常駐する者がいない事務所を有していますが、その所在する市町村に法人住民税を申告納付する必要はありますか?
A.在宅ワークやWEB会議が普及したことにより、従業員を常駐させていた営業所を廃止したり、出張時の営業拠点としてのみ使用したりする事例が出てきています。このような施設を有する法人は、その所在する地方公共団体(都道府県又は市町村)に法人住民税を払う必要があるのか、その判定について説明いたします。
法人住民税の納税義務
法人は地域において事業活動を行う上で地方公共団体が提供する行政サービスを享受しています。地方公共団体の構成員である法人も、行政サービスにかかる費用を個人と同様に幅広く負担することが求められており、その負担が法人住民税です。
地方公共団体に事務所又は事業所(以下「事務所等」といいます)を有する法人は、その所在する地方公共団体に申告納税する必要があります。法人住民税が課税される事務所等とは、その所有形態や登記の有無にかかわらず、事業の必要から設けられた①人的設備及び②物的設備であり、そこで③継続して事業が行われる場所をいいます。
法人住民税の種類
法人住民税には、均等割と法人税割があります。
均等割とは上記①から③のすべての要件を満たす事務所等を設置している法人であれば等しく払う義務のある税金で、法人の規模(資本金等の額)に応じた税額を納税します。均等割は事務所等を有する法人のほか、寮、宿泊所、クラブ、保養所、集会所、休憩所など、法人等が従業員の宿泊、慰安、娯楽等の便宜を図るために常時設ける施設を有する法人も均等割を払います。
法人税割とは法人が国に払う法人税額を基礎として計算します。儲かったら払う税金です。複数の地方公共団体に事務所等を有する法人は、その法人が事務所等を設置している全ての地方公共団体に法人住民税を払います。この場合、法人税割の基礎となる法人税額を各地方公共団体の事務所等で働く従業者数に応じて分割し、それに税率を乗じた額を各地方公共団体に払います。
複数の事務所等を有する場合の納税義務の判定
法人税割の分割計算に用いる従業者とは、その法人等から俸給・給料・賃金・手当・賞与など、給与の支払いを受ける者をいいます。複数の事務所等に勤務している者や主として在宅ワークにより勤務している者は、その者が勤務すべき事務所等の所在する地方公共団体における従業者として数えます。つまり、常駐する者がいなくなり勤務すべき者もいない事務所等の所在する地方公共団体の従業者数は0人となり法人税割を払う必要はありません。
一方、均等割は事業所等を有するかどうかで判定します。その要件の一つである人的設備の有無の判定は、その場所において、従業者が打合せ、商談又は事務処理など、法人の事業活動に従事することがあるかどうかで判定します。常駐する者がいない事務所等であっても、法人の事業活動が行われている場合には、人的設備があるものとして均等割を払う必要があります。
まとめ
実際には各地において事業活動が営まれ収益をあげているにもかかわらず、交通網の発達や在宅ワークの増加に伴い、地方の拠点が廃止されたり、縮小したりすると、納税されるのは均等割のみになります。従業者数を按分の基礎とする制度は、企業の事業活動の事態に合っていないように思われます。