Q.移転価格税制の観点から、海外子会社との取引における当社および海外子会社の利益率に留意したほうが良いと聞きました。具体的にはどういうことでしょうか?
A.重要性を増してきた移転価格税制
国税庁の発表によれば、令和4年6月までの1年間における移転価格税制に係る1件当たりの申告漏れ所得金額は2.6億円(対前年比約18%増)と増加しています。これだけ多額の申告漏れが指摘されると企業経営に大きな影響を与えかねません。
最近では、大企業のみならず中堅企業に対する法人税調査においても、海外子会社との国外関連取引に関する税務調査が増加しているようです。税務調査においては、ローカルファイル等の移転価格関連資料が用意されていることを前提に、それら書類の提出を求められる傾向にあります。移転価格関連資料を一定の期限内に提出できない場合には、推定課税される恐れがあります。
移転価格税制は、日本親会社や海外子子会社等に何をどこまで責任を持ってやらせるかの問題と呼応しています。その意味では、移転価格の管理は、移転価格税制への対策だけに留まらず、海外子会社を事業戦略上どのように位置づけするのかという経営そのものであるともいえます。
切出損益計算書の重要性
「切出損益計算書」とは、日本親会社と海外子会社との間の国外関連取引について、その損益だけを抜き出した損益計算書のことで、「切出損益」や「切出PL」ともいわれます。
海外子会社との取引における切出PLを作成する場合、海外子会社に対する売上高から、これに対応する売上原価及び販管費(これらに合理的な基準で按分した共通費用の額を配賦した額)を減算することにより営業利益を算出することになります。こうした利益率管理を毎年行う必要があります。
海外子会社を有する多くの企業では、経営管理上の必要性から、事業部別、地域別、部門別などといった区分ごとに損益管理をしていることと思います。しかしながら、移転価格税制に対応するための「切出損益計算書」は、こうした経営管理資料と必ずしも一致するわけではないので、移転価格税制上の観点からあえて作成する場合も多いと思われます。
例えば、各社の営業利益率が、日本親会社P社は10%、タイ子会社S1社は9%、中国子会社S2社は7%という企業グループを想定しましょう。