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あがたグローバル社会保険労務士法人船井総研 あがたFAS

好業績下の希望退職募集

2025/11/04

 2025年9月22日付日経電子版に、「三菱電機、希望退職を募集」の記事が掲載されました。希望退職の募集自体は決して珍しくありませんが、この発表に若干の違和感を覚えたのは、三菱電機の業績は絶好調で、25年3月期は過去最高益を更新、そして26年3月期でも3期連続の最高益を見込んでいるからです。また、パナソニックも26年3月期の業績は黒字予想であるにもかかわらず、希望退職を募集しました。

 希望退職の募集をはじめとしたリストラ策は、日産自動車に典型的にみられるように業績不振企業が行うものという先入観がありました。しかし最近は、業績好調でも希望退職募集に踏み込む企業が増えてきました。企業、特に上場大企業は雇用政策を変えてきているように思います。その背景には何があるのか、そしてそれに伴いそこに働く個人はどのように対応すべきか考えてみたいと思います。

 

働き方を会社に預ける終身雇用制

 終身雇用を暗黙の前提としていた時代は、企業が希望退職を募るのは、よほど業績が悪化した場合に限られていました。「希望退職募集」は「業績悪化」という言葉と分かちがたく結びついていて、その企業はそこまで追い込まれているのか、という風に受け取られるのが普通でした。無論、企業にも部門によって浮き沈みがあり、業績不振部門から好調部門への人的移動が必要な場合があります。そうした場合でも、会社全体の業績が黒字で余力があれば、多少時間はかかっても、会社の責任で従業員教育(リスキリング)を実施し、従業員の配置転換を行い、従業員を辞めさせることなく、成長部門を育てるというのが経営の王道だと考えられていました。こうした経営の下では、会社の言うとおりに指示された仕事をしていれば、会社の経営に不安がない限り、定年まで自分の生活を守ることは可能でした。

 

上場企業は時間的余裕がない

 しかし、そうしたことが許されたのは、ある程度長期的視点に立った経営を行うことを許容する風潮があったからです。しかし、近年の上場企業は様相が異なり、常に直近の業績を引き上げることを求められます。長期業績伸長のためであっても短期業績の落ち込みを容認できないのです。

 会社に業績不振部門と好調部門が併存すれば、できるだけ早期に不振部門の圧縮と好調部門の拡大が求められます。不振部門と好調部門で求められる人材が異なれば、好調部門では雇用を拡大しながら、不振部門では希望退職を募るということも行われるようになります。

 

メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用に

 つまり、上場大企業では、会社はどんなに業績が良くても、従業員の雇用を定年まで保証するものではなくなってきているといえます。それは従業員にとって厳しいようにみえるかもしれませんが、見方を変えれば、チャンスと捉えることもできるはずです。

 まず、金銭的な面では、会社全体の業績はいいのですから、追い込まれた状況の希望退職に比べて、退職者に対しての処遇は手厚くなることが期待できます。自分が保有するスキルで外でも働ける自信があれば、希望退職に応じ、割増退職金をもらい、それを財源に新たな職業人生に踏み出すことができます。

 また、こうした状況を活かすためには、自分が行う職務を主体的に選択することが求められます。終身雇用が保証されていれば、会社の命じるままに受け身で職務を遂行していればよかったのですが、会社都合でいつ退職を迫られるかもしれないとすれば、これから自分が携わるべき職務、そして身につけるべきスキルを自ら選択する必要があるのです。

 少し以前から、どこの会社に入社したのかが重要なメンバーシップ型雇用から、どんな仕事をするかが問われるジョブ型雇用への転換が叫ばれていました。ジョブ型雇用への転換を公式に発表している会社は少ないのですが、「好業績下の希望退職募集」という状況は、雇用現場ではなし崩し的にジョブ型雇用が進んでいることを示しているということができます。働く個人もそれに対応した働き方が求められていると自覚するべきでしょう。

 

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