◆受取配当金の益金不算入の適用と留意事項
グループ企業では、企業グループ全体の資金効率の向上を図るため、グループ内貸し付けや配当金の支払いにより、親会社に資金を集中させることがあります。
企業を買収して子会社化した後に受け取る利益剰余金を原資とした配当金は、原則として益金不算入(法人税の課税所得から除外)となります。ただし、益金不算入となる額については株式の保有期間による制限があり、配当を受けるタイミングによって異なります。
親会社において子会社からの配当金で全額益金不算入となる配当金は、その配当金の計算期間の初日から当該計算期間の末日まで100%支配関係が継続している場合であることから、買収直後に配当を行った場合には、全額が益金不算入となるのではなく、配当金の50%が益金不算入となります。
通常、この配当の計算期間は、その配当等の直前の支払に係る基準日の翌日から、その配当等の支払に係る基準日までの期間とされていますので、3月決算法人が期末配当のみを行う場合には4月1日から3月31日までとなります。仮に、10月10日に買収して子会社化した場合には、翌年3月31日を基準日とする期末配当は、計算期間を通して100%保有していませんので、全額益金不算入とはならず、50%が益金不算入となり、法人税負担が生じてしまいます。
このように利益剰余金を原資とした配当を行う場合には、配当の計算期間に留意する必要があります。
なお、資本剰余金を原資とする配当を行った場合に生じるみなし配当は、その効力が生じる直前に100%保有していれば全額が益金不算入となりますので、純資産の部にその他資本剰余金が計上されており、その範囲内で配当する場合には、買収直後でも全額が益金不算入となります。
◆事業を会社分割により切り出した会社を買収する場合の節税手法
複数事業を営む会社から1つの事業を買収する場合に、買収対象事業を会社分割により新しい会社(以下「新設会社」といいます)に承継し、新設会社を買収する手法を取ることがあります。
この場合、新設会社の貸借対照表は、承継対象事業の資産と負債が時価で承継され、その差額が純資産となります。新設会社の資本金の額は、この純資産の範囲内で決めることができ、例えば、2億円の純資産がある場合には、資本金の額を1円から2億円の範囲内で決めることができ、資本金としなかった金額はその他資本剰余金として計上されます。
一方、法人税における取扱いは、純資産の全額が「資本金等の額」とされ、この「資本金等の額」は、下表のように法人住民税の均等割の税率に影響します。

この「資本金等の額」を減額させる方法の一つとして、資本剰余金を原資とした配当があります。
例えば、純資産が2億円の新設法人の場合であれば、資本金を1千万円、その他資本剰余金を1億9千万円とし、設立事業年度の末日までに、資本剰余金を原資とした1億9千万円の配当を行うことによって、資本金等の額を1億9千万円減少させ、1千万円にすることができます。節税額は1年単位ではそれほど大きくないかもしれませんが、均等割は赤字であっても支払う税金であり、会社が存続する限り税負担の減少効果があります。
このように、配当の時期や方法によって税務の取扱いが変わります。
M&Aにより買収した会社から資金を集約することを予定している場合には、これらの取扱いを確認しておくと良いでしょう。