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あがたグローバル社会保険労務士法人船井総研 あがたFAS

のれんの会計処理の見直しがM&Aに与える影響

2025/12/05

 2025年10月現在、企業会計基準委員会ではのれんの会計処理を見直すかどうか議論が進められています。のれんは、主に上場会社が作成する連結財務諸表に計上されるものですが、この会計処理の見直しがM&Aに大きく影響を与えることが見込まれています。中堅規模の非上場会社でも上場会社に経営を譲り渡すケースが増えており、のれんの会計処理が連結決算に与える影響を知識として押さえておくことは非上場会社の経営者にとっても有益です。

 そもそものれんとは、企業の超過収益力の源泉であり、その企業の持つノウハウ、ブランド、信用、顧客基盤などを意味します。ある企業を買収する際にやり取りされる株式の購入対価は、その企業が有する資産の価値以外に、将来獲得されるキャッシュ・フローを評価して値付けされることが通常です。すなわち、株式の購入対価には会社の一時点の純資産価値だけでなく、会社の超過収益力等を示すのれんや、貸借対照表には計上されない無形資産・知的財産価値が含まれています。

 では株式に含まれているはずののれんが連結財務諸表に現れるのはなぜでしょうか。それは、企業グループを1つの企業集団として連結財務諸表を作成する際に、親会社が保有する株式と、子会社の純資産を相殺し、消去差額をのれんとして連結BSに計上するためです。

 日本の会計基準は、のれんを20年以内に規則的に償却し、のれん償却費は営業利益に含めるルールを設けています。一方で国際会計基準(IFRS)では、のれんは非償却としながらも、のれんの価値が棄損していないか毎期減損テストを実施することとされています。この会計基準の相違により、日本基準で作成される連結財務諸表はのれん償却負担により営業利益が押し下げられることとなります。一方IFRS採用企業では毎期ののれん償却負担はないものの、買収した会社の業績が期待に届かずのれんの価値が棄損していると判断されれば一時に多額の償却費が営業利益に計上されます。

 会計基準の優劣はさておき、のれんを規則的に償却しないという選択肢はM&Aを積極的に行う企業にとっては魅力的に映ります。なぜなら日本基準を採用している場合、買収した子会社が計上する営業利益よりものれん償却負担が大きいと、連結ベースでは営業利益が減少するためです。一方IFRSではのれんの価値が棄損してないと判断される限り、買収した子会社が計上される営業利益は連結財務諸表にプラスされます。「のれんの規則的償却がM&Aを実行するうえでの障害となっている」あるいは「のれん償却負担のためにM&Aを断念したことがある」という経営者の意見は無視できないものがあります(経済同友会 のれんの規則的償却に関するアンケート調査結果 2023年より)。

 

 このような問題提起から、冒頭でご紹介した会計基準の見直しの動きにつながっています。のれんの非償却が選択肢として認められた場合、M&Aという選択肢がより身近なものになり、上場会社がM&Aにより成長を目指す機会も増えるでしょう。譲受側が会計方針としてのれん非償却を選択している場合は買収資金が高額になるということもあるかもしれません。ただし、のれんの価値が棄損していないか、毎期買収結果を評価する手続きがますます重要なものとなるでしょう。

執筆者

稲垣 泰典Yasunori Inagaki

公認会計士・税理士

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